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思わず漏れる「あの6番、凄いな!」の声。明秀日立が誇る“最強の黒子”、MF大原大和が醸し出す圧倒的存在感

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明秀日立高が誇る“最強の黒子”、MF大原大和(3年=クラブテアトロJY出身)

[8.4 インハイ決勝 桐光学園高 2-2(PK6-7)明秀日立高 花咲スポーツ公園陸上競技場]

 思わずゴール裏に並んだカメラマンたちから、感嘆の声が漏れる。「あの6番、凄いな!」。ボールの行く先には、必ず6番が走り出す。チームの危険なシーンには、必ず6番が現れる。こんな選手、どんな監督でも絶対に使いたくなるはずだ。

「自分はそんなに点を決めるような、目立ったプレーはしないですけど、黒子的にしっかりプレーできるところを見てもらえたらいいかなと、思います」。

 鮮やかに日本一へ辿り着いた明秀日立高(茨城)の中盤を支える“最強の黒子”。MF大原大和(3年=クラブテアトロJY出身)が地味に放つ存在感、とにかく圧倒的。

 そもそもは1回戦のことしか考えていなかったという。相手はプレミアリーグWESTで首位を走る、優勝候補の静岡学園高(静岡)。そう思うのも無理はないが、「静学は個人技も凄くて、パスワークで打開されるシーンが多かったんですけど、全員がタフに守備からやって、ゴール前に侵入されても全員が身体を張って戦ったので、勝てたと思います」と大原が振り返るように、明秀日立は勝利を収めてしまう。

 大原が控えめに言った言葉が興味深い。「自分は1回戦の静学戦しか見ていなかったので、その1試合に全力を注ごうとやっていましたけど、楽しみな部分が大きかったです」。なかなか肝は据わっているようだ。

 チームは3回戦で、今度はプレミアリーグEASTで首位に立つ青森山田高も撃破する。「山田戦は自分たちの強みの強度を前面に出したんですけど、相手もそれを上回るような強度でやってきて、セットプレーやロングスローをしぶとく守って、そこでも全員が諦めずにやったことで、一瞬の隙が生まれたところを逃さずに決められて、そこも勝てたので良かったです」とは大原。この試合で彼らに一気に注目が集まったのは間違いない。

 大原が再び控えめに言った言葉も興味深い。「今でもちょっと実感が湧かないというか、『本当に勝ったのかな?』という気持ちも大きいですけど(笑)、それは間違いなく自信になったと、思います」。独特の間合いで話すキャラクターも面白い。

 桐光学園と向かい合った決勝でも、その仕事ぶりは際立っていた。「自分は守備的な感じで、(吉田)裕哉は攻撃的な感じなので、裕哉が出たらそこの穴を埋めるみたいなイメージで、自分はカバーリングを意識してやっていました。そこのチャレンジアンドカバーは常に声を掛け合っていたので、できたかなと、良かったかなと、思います」。

 ドイスボランチを組んだMF吉田裕哉(3年)との補完関係も抜群。危ないシーンはもれなく大原が掃除し、吉田がゲームを組み立てていく。だが、そんな“守備的ボランチ”が攻撃で眩い輝きを放ったのは、1点をリードした前半19分のことだ。

 吉田、FW石橋鞘(3年)と繋いだボールが目の前に落とされると、大原は躊躇なく30メートル近い完璧なスルーパスをグサリ。走ったFW熊崎瑛太(3年)は潰れたものの、こぼれを拾ったFW柴田健成(2年)がゴールを陥れる。自身にとっても2点目を挙げた16番を中心に大きな歓喜の輪が作られたが、6番が繰り出した“狂気”すら感じるスルーパスも、絶対に見逃せないスペシャルな1本だった。

 基本的に表情はまったく変わらない。淡々と、確実に、仕事を遂行していく。そんな大原が感情を唯一剥き出しにしたのは、日本一の懸かったPK戦の時のこと。3人目のキッカーとして登場すると、自分の間合いで蹴ったボールは右スミのゴールネットに突き刺さる。その瞬間。両手でガッツポーズを作りながら咆哮する姿に、その感じていたプレッシャーの大きさが垣間見えた。



 日本一を勝ち獲った表彰式でも、賞状を受け取った大原の表情は変わらない。いつも通り淡々と、真面目に、自分の仕事を遂行していく。だが、優秀選手が発表され、自分の名前が呼ばれた時には、少しだけ意外そうな表情を浮かべる。

「『もっといい選手がいるんじゃないか』と思うんですけど(笑)、ミッドフィルダーで最初に名前を呼ばれたので、ちょっと実感が湧かなかったです」。本人は予想していなかったようだが、この決勝の、この大会のパフォーマンスを見れば、誰もが納得の選出であることに疑いの余地はないだろう。

 チームを率いる萬場努監督も「大原は守備の狙いどころに関しては、試合のたびに言っていたところをちゃんと回収してくれましたし、“黒子”っぽくやってくれたのが大きかったですね」と評価を口にするボランチは、この日から『日本一のチームのボランチ』として選手権に向かうことになる。そのことについて尋ねると、それまでと変わらない口調で、大原はこう言い切った。

「この大会でできた部分もあったんですけど、課題も出たので、そこを日々のトレーニングで完璧にして、日本一という肩書に恥じないような、凄いボランチになりたいと思います」。

 控えめに飛び出した『凄いボランチ』への挑戦宣言。明秀日立が誇る“最強の黒子”。大原が地味に放つ存在感、とにかく、いつでも圧倒的。



(取材・文 土屋雅史)
●【特設】高校総体2023
土屋雅史
Text by 土屋雅史

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