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人生初の海外遠征はU-16日本代表のパラグアイ遠征。「自分もプロになりたいと思った」健大高崎DF新井夢功の上がり続ける目線

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U-17ワールドカップ出場を狙う健大高崎高DF新井夢功

 一度上がってしまった目線は、もう下げられない。想像もしていなかった世界の魅力を知ってしまったからには、もうその先へと飛び込んでいくしかない。サッカー選手であるならば、それはごくごく自然な欲求だ。

「代表に行くまでは『上手くなろう』としか思っていなかったんですけど、代表に行って、やっぱりプロを目指そうと思いました。みんなの凄さを見て、刺激を受けましたし、『自分もプロになりたい』と思ったんです」。

 無印だった16歳が開き掛けている、輝く未来への扉。U-16日本代表候補での海外遠征も経験した上州産のレフティ。健大高崎高DF新井夢功(1年=前橋FC出身)は以前より見える景色の広がりを、確実に感じている。

 それは唐突な報せだった。昨年12月。チームを率いる篠原利彦監督から声を掛けられる。「篠原先生から自分に伝えられましたけど、それを聞いて緊張しちゃいました(笑)。まさか選ばれるなんて思っていなかったので」。新井に伝えられたのはU-16日本代表候補に選出されたことと、パラグアイへの海外遠征に参加できるということ。意外過ぎて、にわかには信じられなかった。

 サッカーで海外に行くのも初めてであり、それが初めての年代別代表招集という状況にも、すぐに覚悟は定まった。「代表なので責任感を持って、国のためにプレーしようと思いましたし、高体連の選手が1人辞退してしまって、自分1人しかいないという中で、『自分が高体連の強みを見せ付けて、もっと高体連の選手が選ばれるように頑張ろう』と思いました」。

 中央学院高のFW高橋旺良がコンディション不良で不参加となったため、20人のメンバーの中で唯一の高体連所属選手となったが、その自覚を心に刻み、より高いモチベーションに変えていく。

 他の全員はJリーグのアカデミーに所属している上に、1人も知り合いのいない中で代表活動がスタートしたが、新井はチームメイトたちのあることに気付いたという。「みんなコミュニケーション能力が高くて、そうすることでもっと周りと関わったりすることができるんだなって」。

「割とみんなフレンドリーに来てくれたので、自分も話しやすかったですし、みんなサッカーの話も合うので、早く馴染めて楽しかったです。特に川口和也くん(東京Vユース)とはゲームの話をして仲良くなりました(笑)。自分もどっちかと言うとコミュニケーションを取るのは得意かもしれないです」。比較的早くチームへ溶け込むことに成功する。

 初めての代表、初めての海外遠征は、刺激的な体験だった。「プレーでは1対1の対応と背後の対応は、より意識させられました。プレー以外では身体作りの部分で、海外の選手は身体が強かったので、それに負けないぐらいのフィジカルを付けなくてはいけないなと。そういう部分を学びました」。

 さらに強く感じたのは、チームメイトの意識の高さだった。「代表のみんなは1人1人が中心選手みたいな役割を意識している感じだったので、自分も健大に戻ってきて、チームの中心選手になって、チームをまとめて、自分がチームの軸になろうということを意識していますし、2年生だからとかも関係なくやっています」。1週間あまりの活動期間だったが、さまざまな基準が格段に上がったことを新井自身も実感している。

 中学時代は群馬県内の強豪・前橋FCに所属していた新井は、県内でも着実に力を伸ばしていた健大高崎に進学。「育英に勝つためには、健大が一番いいかなと思ったんです。コーチの後藤さんや篠原先生といろいろ話した時に、『育英に勝ちたい』という熱意が凄く伝わってきて、『自分もここで一緒に育英を倒そう』と思いました」。打倒・前橋育英を胸に、新興校の門を叩く。

 1年生だった昨年度の選手権予選では、準決勝で前橋育英と対峙。スタメン出場した新井も夏の日本一に輝いたタイガー軍団相手に奮闘し、セットプレーからゴールを演出する場面も作りながら、終盤に決勝点を奪われて1-2で惜敗。その試合から“あと一歩”の重要性を痛感したという。

「“あと一歩”の差というのが大きかったです。そこはやっぱり日々の練習の意識の差で、育英と差ができていると思うんですよね。技術ではそんなに差はないと感じたので、普段から意識をしっかり持って練習していれば、育英とも互角にバチバチやれるかなと思いました」。小さいようで大きかったその差を埋めるため、日々の練習と真摯に向き合っている。

 とりわけ強く意識している存在は、中学時代のチームメイトであり、最大のライバル校の主力候補だ。「佳が一番のライバルですね。自分とプレースタイルが似ていますし、それに勝てるぐらいの力を付けていかないとダメだなと思っています」。

 1年生から前橋育英で公式戦の出場機会を得ているDF山田佳(1年)は、前橋FCで同じボールを追いかけた仲間。「佳は同じポジションの選手で、自分は中2の時は試合に出ていたんですけど、中3になって佳にポジションを取られたので、それが悔しくて、ずっと練習していました。当時からいろいろな代表にも呼ばれていたので、向こうの方が評価は高かったと思いますし、高校になっても佳はライバルですね」。

 前橋育英を倒すということは、山田を倒すということにも結び付く。あるいはU-17日本代表でもポジションを争う可能性もあるだけに、所属チームこそ分かれてはいるが、良い意味での切磋琢磨はこれからもずっと続いていく。

 さらなる飛躍を期す2023年。明確な目標を心の中で掲げている。「U-17ワールドカップに出たいです。そこに行くには、代表のライバルのみんなより1つずば抜けているものが必要だと思うので、自分の課題に向き合いつつも、自分の長所を伸ばして、1つでもストロングを持てるように、日々の練習や自主練から意識高くやりたいです」。

「健大としてはプリンスも1部になったので、去年の3年生が残してくれたものを、自分たちがもう1個上に上げて、プレミアまで行きたいですし、チームとしてまだ選手権の県優勝というのもないので、育英とか桐一のような強いチームを倒して、県チャンピオンを獲って、全国で結果を出せるようにしたいです」。

 歴史と、記憶に刻みたい。『健大高崎』という高校名と、『新井夢功』という自らの名を。そのためにやるべきことは、すべてやってやる。『健大高崎の新井夢功』を多くのサッカーファンに知らしめるための挑戦は、もうその幕が上がり始めている。



(取材・文 土屋雅史)

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