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課題と収穫と帰ってきた日常と。市立船橋とFC東京U-18が繰り広げた激闘は2-2でドロー決着

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市立船橋高MF太田隼剛FC東京U-18MF佐藤龍之介のマッチアップ。好ゲームは2-2のドロー決着

[4.9 高円宮杯プレミアリーグEAST第2節 市立船橋高 2-2 FC東京U-18 第一カッターフィールド]

 開始直後の先制点にも、3分間での逆転劇にも、終了間際の同点弾にも、ピッチの熱とスタンドの熱が一体になっていく雰囲気が、この日の会場には確かにあった。まだ歌い慣れていないチャントも、目の前のプレーに対する歓声や拍手も、やはりゲームを構成する大きな要素だ。

「ホームですし、これだけたくさんのお客さんが見に来てくださったことはありがたいなと。選手の応援もだいぶ久々で、たぶん今までやったことがなかったので、ちょっと間違えていたりしていましたけど(笑)、少しずついろいろなことが元に戻っていく中で、チーム一体となって、地域の人を巻き込んで、ということができたらなと思っています」(市立船橋高・波多秀吾監督)。

 課題と収穫と帰ってきた日常を噛み締めるような、濃厚な90分間。9日、高円宮杯 JFA U-18 サッカープレミアリーグEAST第2節、市立船橋高(千葉)とFC東京U-18(東京)が激突した一戦は、開始早々にMF佐々木裕涼(3年)のゴールで市立船橋が先制したものの、後半にFW山口太陽(2年)とMF佐藤龍之介(2年)の連続ゴールでFC東京U-18が逆転。だが、粘る市立船橋も終了間際の45+4分にFW郡司璃来(3年)が執念の同点弾を叩き込み、ドロー決着となった。

 試合はすぐに動く。前半3分は市立船橋。相手のビルドアップをMF秦悠月(3年)がさらって右クロス。受けた郡司のシュートはFC東京U-18のGK小林将天(3年)がファインセーブで弾くも、浮かんだこぼれ球に佐々木が飛び付き、体ごとボールをゴールへ流し込む。「彼の良さが凄く出た点数だったんじゃないかなと思います」と波多監督も笑った、163センチの元気印が気持ち全開の先制弾。ホームチームが1点をリードする。

 以降も攻勢は市立船橋。「相手のプレスを考えると、ボールを持つことが少し自分たちのウィークになるような状況だったので、シンプルにラインの裏を取りに行きました」(波多監督)。前線の郡司とFW久保原心優(2年)を早く生かすアタックをベースにしつつ、8分には郡司が左から中に打ち込み、3列目から飛び出した秦が久保原とのワンツーでエリア内へ侵入。シュートは小林にキャッチされたものの、スムーズな連携でフィニッシュまで。DF佐藤凛音(3年)とMF金子竜也(2年)で組む右サイドの推進力も含め、その攻撃性を前面に打ち出しながら、古巣対決に燃えるDF宮川瑛光(3年)とDF五来凌空(3年)のCBコンビとGKギマラエス・ニコラス・ロドリゲス(2年)を軸に守備陣も安定。前半はそのまま1-0で終了した。

「それぞれ特徴があってピッチに立っているわけなのに、それを発揮しているのかどうかというところで、それぞれが“持ち物”も出さずに、うまいこと自分のところでミスを起こさないように、というふうに見えた前半でした」と45分間を振り返ったFC東京U-18の奥原崇監督は、選手へシンプルに訴えかける。「『みんな本当にボールを受けたがってるか?』って。『みんなで主体的にプレーしないと前へ進めないぞ』と言われました」(佐藤)。

 スコアは3分間で引っ繰り返る。後半12分。FC東京U-18は右サイドでDF小嶋淳平(3年)とDF岩田友樹(2年)の囲い込みでボールを奪うと、MF川村陸空(2年)は前に運んで左へ。「顔が上がった時に太陽がプルアウェイみたいな感じで離れていたのが見えた」佐藤が左足で上げたクロスを、強引に胸でコントロールした山口はそのまま左足ボレーをゴールネットへ叩き込む。1-1。同点。

同点弾を挙げたFW山口太陽がアシストのMF佐藤龍之介(10番)と歓喜の抱擁


 後半14分。左サイドでルーズボールを拾った10番は「パスの判断も常に頭に入れながら、『ドリブルした方がゴールになる確率が高いな』と判断したので、迷わずドリブルしました」と力強く斜めに切れ込み、そのままフィニッシュ。低い弾道の軌道はゴール左スミを確実に捉える。「失点して失うものがない状況になってから、ようやく目が覚めたというか、本来の力が出せるようにはなったかなという感じですね」(奥原監督)。2-1。逆転。佐藤の1ゴール1アシストで、FC東京U-18が一歩前に出る。

「後半は立ち上がりから押し込まれて、嫌だなという感じはありました」と波多監督も言及した市立船橋もこのままでは終われない。だが、36分にはキャプテンのMF太田隼剛(3年)の左CKから五耒が押し込んだシュートは、FC東京U-18のDF伊藤ロミオ(3年)のスーパークリアに阻まれ、40分に郡司のスルーパスからFW伊丹俊元(2年)が迎えた決定機も「あそこでチームを救わなくてはいけないと強く思っていた」という小林がビッグセーブ。次のゴールが遠い展開が続く。

 それでも最後に大仕事を果たしたのは、やはり絶対的なエース。試合終了間際の後半アディショナルタイムは45+4分。左サイドからDF神馬颯介(3年)が上げたクロスをニアで伊丹がフリックすると、「反射的に飛び込んだだけ」という郡司のダイビングヘッドがゴールネットへ吸い込まれる。ピッチの選手も、ベンチの選手も、波多監督も、殊勲の10番へ駆け寄ってできた歓喜の輪。ファイナルスコアは2-2。激闘の90分間はそれぞれに収穫と課題と、勝ち点1をもたらした。



 FC東京U-18は前半の戦い方に課題が現れたのは明確。奥原監督の言葉が興味深い。「選手にしてみれば、チームのやり方や戦術的なところで解消してほしいと思うところでも、僕の立場はそこで戦術的なものに逃げさせないようにすることが大事で、個々がちゃんとやるべきことを、戦うべきところでやっていたのかと。それをみんながちゃんと自信を持ってやろうとすれば、後半のウチの時間帯のようなところは、そんなに難しくなく作れるんじゃないかなと思っています」。

 プレシーズンはなかなか結果の出ない時間が続いたものの、ドローが続いたこのプレミアの2試合で手応えも確実に得ている。「実際たぶんみんな不安な状態でプレミアに入ったんですけど、その中でFC東京を背負って試合に出ているので、勝たなきゃいけないという想いもあって、みんな責任感強くプレーできているからこそ、勝ち点が付いてきてくれているのかなと。ただ、昌平戦も今日も肌感として勝てた試合かなとは思っています。やっぱり最後の詰めは甘かったですし、もっと謙虚にやっていかないと勝ち点3は獲れないかなと感じました」(小林)。

「まだまだはっきりレギュラーが決まっているわけではない状況なので、入りのところでそれぞれが気持ち的に受けたなというのが前半の印象でした。それでレギュラーを獲れるほど甘くないですし、ウチには良い選手がたくさんいるので、競争に勝っていくための意欲をもっと日常のところで掻き立てて、自信を持ってピッチに立てる状況にしないといけないなというのが僕の反省ですね」(奥原監督)。次は勝ち点1を、勝ち点3に変えるための日常が、小平で待っている。

 市立船橋は試合前も、試合中も、とにかく選手たちからほとばしるエネルギーが印象的だった。「ピッチ外でも凄く明るいですし、仲も良いですし、今までは良い時と悪い時の波が凄くあったんですけど、我慢するべきところは我慢して、弾けるところはエネルギッシュにやってという部分が少しずつ出てきたので、そこは彼らの良さですし、勝ち点が獲れている1つの要因かなと思います」と話すのは波多監督。エネルギッシュさに定評のある太田も「チーム内でも元気で負けないように頑張りたいです」と嬉しそうに笑う。

 ここ2年は選手権の代表権を逃し、プレミアでも残留争いに巻き込まれるなど、やや苦しい時間を過ごしてきたからこそ、先輩たちの想いも汲んで、彼らは新しいシーズンへと決意を新たにしてきた。

「今はどのカテゴリーもみんな1つになってくれているので、誰一人欠けてはいけない存在だと思っていますし、誰も腐っていく選手もいないのは今年の特徴ですし、目標に向かって1つになれる本当に良いチームかなって。近年は市船も結果を残せていないですし、もう1回市船の力を全国に示さないといけないので、先輩方が築いてきた伝統も守りつつ、自分たちで新たな歴史を作っていく意味でも、しっかりといろいろな新しいことにチャレンジしながら、強い市船をもう一度取り戻したいと思います」(太田)。

 試合に出ていない選手もピッチの選手を全力で盛り上げ、ゴールを決めたらメチャメチャ喜んで、そこに監督も走っていく。日常が帰ってきつつある2023年の市立船橋は、間違いなく面白い。



(取材・文 土屋雅史)

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