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17年ぶりの全国は新チームの大きなモチベーションに。東京4冠を目指す成立学園は上手くて、元気で、強い集団へ

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関東大会予選連覇を狙う成立学園高は苦しみながらも初戦突破!

 国立競技場で勝利を奪い切った開幕戦と、2回戦で突き付けられた悔しい敗戦。全国大会で味わった2試合は、その立っていた場所がピッチでも、ベンチでも、あるいはスタンドでも、彼らの中に小さくない経験として残っている。だが、今年は今年。去年のチームと比較されることはわかっているが、自分たちらしく戦って、先輩たちに見せてもらった景色のさらに先を手繰り寄せようと、決意を新たにしている。

「選手権の結果で、サッカー部が成立学園を引っ張っていかないといけないというところもあって、チームの看板を背負っているという意識をみんなが持っていますね。でも、自分たちはあまりプレッシャーを感じずに、自分らしくやっていこうみたいな感じです」(成立学園高・横地亮太)。

 関東大会東京都予選2回戦。成立学園高(東京)にとっては、既にT1(東京都1部)リーグで1試合を経験しているとはいえ、新チームとして初めて臨むトーナメントの初戦ということもあって、立ち上がりから大成高の小気味良いアタックを受けてしまう。

「自分たちはシードされていたのでこれが初戦で、相手は2試合目でトーナメントの戦い方もわかってきている中で、それに自分たちがどう対応していくかが一番大事かなと思っていたんですけど、入りがみんな硬くて良くなかったです」と話すのは、昨年は2年生で唯一レギュラーを張っていた、今季のキャプテンのMF横地亮太(3年)。なかなか持ち味のパスワークも披露できず、耐える時間が続く。

 だが、ピッチの中での声は途切れない。「入りは緊張するのはわかっていましたし、始まる前からも声を出してみんなでやろうというのは話していたので、そこはうまくできたかなと思います」と振り返るのは、10番を背負ったMF外山朔也(3年)。チームきってのムードメーカー、GK新渕七輝(3年)が積極的に声を出し、最終ラインもDF鎌田真碧(3年)とDF大坂颯汰(3年)のセンターバックコンビを中心に、最後の局面では身体を張り続ける。

 0-0で迎えたハーフタイム。経験豊富な山本健二監督は、シンプルな言葉を選手たちへ投げ掛ける。「『苦しい戦いになる。だけど、勝って次に繋げることによって、自分たちの良さが絶対出てくるから、今日は勝つ試合をやろう』と言いました」。初戦で硬くなるのは当たり前。この試合で何よりも大事なのは勝利だと、明確なメッセージが選手へ届けられた。

 後半も決して楽な展開にはならなかった。際どいエリアまで攻め込まれるシーンも少なくなかったが、右サイドバックのDF桜井勇樹(3年)も、左サイドバックのDF矢島脩大(3年)も守備に奔走。横地とMF笠原麻守(3年)のドイスボランチもセカンド回収に走り続ける。

 すると、乾坤一擲のアタックは後半30分。相手のFKからクリアボールを横地が左へ流すと、一気に高速カウンター発動。パスを受けたMF佐藤蓮(3年)は自陣から左サイドをグングン加速してマーカーをぶっちぎり、飛び出したGKの鼻先を軽く浮かして、ボールをゴールネットへ滑り込ませる。

 結果的にはこれが決勝点。「守備も全員で声を出して、1本カウンターで点が獲れたので、苦しいゲームでしたけど勝てて良かったです」(外山)。執念のウノゼロ勝利で厳しい初戦を勝ち切った試合後の成立学園には、ピッチでも、応援団が陣取るスタンドでも、至るところで歓喜の笑顔が咲いていた。

 昨年度のチームは関東大会予選で幸先良く優勝。インターハイ予選こそ準々決勝で東海大高輪台高にPK戦で敗れたものの、リベンジを期して臨んだ選手権予選は、準々決勝以降はいずれも1点差の勝負を力強く引き寄せ、17年ぶりの東京制覇を勝ち獲った。全国の舞台でも、国立競技場で行われた開幕戦で津工高(三重)に3-2で競り勝ち、こちらは19年ぶりの全国勝利をゲット。2回戦では日本文理高(新潟)に後半アディショナルタイムの失点で惜敗したものの、貫いてきたパスサッカーは周囲の評価も高く、改めて成立学園の名をサッカーファンに知らしめた。

「選手権に出たことで、学校の皆さんもより『サッカー部頑張れよ』といった感じで見てくれるようになったので、そこは本当にやりがいがありますし、そういう意味では彼らもやる気になるんじゃないかなと思います」とは山本監督。また、横地は「『今年も選手権を獲りに行こう』という気持ちはサッカー部全体で大きくなって、セカンドチームもサードチームも、全カテゴリーの選手が上に上がりたいという気持ちがあるので、競争心があるチーム作りができているのかなと思います」と選手たちの士気の向上を指摘。全国大会の経験は今年の選手たちにも、間違いなくポジティブな効果をもたらしている。

 この日、特に印象的だったのはウォーミングアップの元気さ。「今年は結構アップからも声が出て、雰囲気作りもできるので、そういうところからみんなでやっていけるようなチームです」と外山が話せば、「最初のアップの時からみんなで声を出して、あそこで相手を圧倒して、ビビらせてやろうというスタンスでやっているので、そこが今年の持ち味ですね。自分たちも上手いとは思っていないので、そういうところで相手を上回ろうという気持ちはあります」とは横地。グループ全体が持っているエネルギーも、今年のチームの大きな武器だ。

 もちろん周囲からの期待が集まることは想定済み。それでも、必要以上の気負いは見られない。「チームがガラッと変わっているので、基本的に今は選手を軸として、あまりこちらは言わないようにしています。まあ、いつもあまり言っていないんですけど(笑)、特に今は選手が主体となって、『どんどん失敗していいからやれ』という感じでやっています」(山本監督)。良い意味でいつも通り肩の力の抜けた指揮官のスタンスも、このチームにはぴったりマッチしている。

 去年もこの関東大会予選を制したことで、大きな自信を得た。そのことは横地もよくわかっている。「もちろん2連覇するつもりでここに来ているので、チームの雰囲気は良いですね。自分たちは東京4冠を目指しているので、これはその一番最初の大会ですし、その結果で1年の入り方が決まってくるので、この大会を大事にしていきたいです」。

 見据えるのは絶対的な東京王者。上手くて、元気で、強い集団へ。2023年も成立学園の躍動から目が離せない。

(取材・文 土屋雅史)

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