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ピッチにもスタンドにも充満するエネルギー。2023年の実践学園は「応援されるチーム」から「応援したくなるチーム」へ

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実践学園高は5ゴールを奪って快勝を収める!

 エネルギーは、満ちている。それをどういう方向に生かしていくのかは、きっと今年のチームの大きな命題だが、いろいろな悩みや課題を吹っ飛ばすぐらいのパワーが、彼らには間違いなくある。

「ウチが勝つ時はエネルギーのある子たちが多いというか、そういうものの方向性が同じになった時に、初めてパワーが全体に生まれるのかなと思うので、だからこそトップチームは控えの子たちの想いを本当に汲んで、自分たちがサッカーを真剣にやるのは当たり前で、それ以外のところでもとにかく一番やらなきゃダメだと。学校生活のところも含めて、そこは口が酸っぱくなるくらいは伝えています」(実践学園高・内田尊久監督)。

 いきなりの失点だった。関東大会東京都予選2回戦。実践学園高(東京)は前半8分に右サイドを切り裂かれ、駿台学園高に先制点を献上する。ただ、初戦の高島高戦も先に得点を奪われたものの、最後は3-2で逆転勝利。「1回戦で逆転できたことは大きかったと思います。先制されても取り返せるというのは自分の中でもあったので、そんなに焦り自体はなかったですね」とキャプテンのDF鈴木嘉人(3年)の言葉は、ピッチ上の誰もが感じていたようだ。

 失点から5分後の13分。エースがスコアを振り出しに引き戻す。左サイドを抜け出したFW小嵐理翔(3年)は、「良い縦パスが入って、良いトラップができて、良いシュートが打てて、良いことが全部繋がったので(笑)、良かったなと思います」という良いことづくめの一撃でゴールを捕獲。あっという間に同点へ追い付いてみせる。

 17分に躍動したのは8番のレフティ。右サイドでMF鈴木陸生(3年)からボールを受けたFW関根宏斗(3年)は、「コーチから『どんどんシュートを打っていけ』と言われていましたし、練習からカットインしてのニアは狙っていて、イメージ通りでした」というカットインシュートをニアサイドのゴールネットにグサリ。4分間で逆転してしまう。

 こうなると、もう勢いは止まらない。39分には右サイドバックのDF冨井俊翔(2年)がオーバーラップからシュートを右ポストにぶつけると、「コースは甘かったですけど、良い感じにミートしたので入って良かったです」と小嵐がこぼれ球を豪快に叩き込んで3点目を記録する。

 後半にもセットプレーからDF山城翔也(3年)と鈴木のセンターバックコンビがそれぞれ加点し、終わってみれば5-1の快勝。「リーグ戦と関東予選も全試合で失点しているので、守備を大事しているウチとしてはどうなのかなというところはあります。トータルで見たら最後は落ち着いたかなという感じはするんですけど、まだまだだなというところですね」と内田監督は渋い表情も、その攻撃力を存分に発揮して、準々決勝への進出権を手繰り寄せた。

 今シーズンの実践学園は体制に変化があった。同校サッカー部で30年近く指揮を執ってきた深町公一・前監督が退任。後任として長年コーチを務めてきた内田尊久監督が就任した。

「僕は深町先生みたいにどっしりしているタイプではないので、それには良いところも悪いところもあるかなと。スタッフ間のやり取りは今まで以上にできているのかなという気はするんですけど、やはりチームを締めるところはまだまだ自分に足りないところで、そこをどうしていくかは今後の課題なのかなと自分自身では感じています」(内田監督)。印象的だったのはこの日の試合後。指揮官は試合のメンバー1人1人とハイタッチして、言葉を交わしていた。柔らかく包み込むような人間性が、この人の大きな武器であることは間違いない。

 また、この日は声出し応援も解禁。ベンチ外の選手たちはピッチサイドから大声を張り上げ、グラウンドを駆け回る選手たちを鼓舞し続けた。「去年の東京の選手権決勝時は探り探りというか、久しぶりすぎて誰も応援を経験していない状況だったので、なかなかまとまりが出なかった部分もあったんですけど、今年は応援練習も早い段階でやってきて、少しずつ形になってきているのかなと思います」と話すのはコロナ禍以前も知る内田監督。一方で選手たちも、応援がもたらすパワーを強く実感していた。

「応援って難しい立場ですし、正直自分がピッチに立てていない中で、あれだけの応援をしてくれたというのは、自分たちも責任を持ってやらないといけないなと感じて、空いた時間で応援の練習もしてくれていたこともあって、それに応えないとなとは思っていたので、それが結果に繋がって良かったです」(鈴木)「応援している人たちには正直複雑な気持ちがあると思っていて、自分も出たいと思っている選手がいる中で、ああやって応援してくれているので、それに自分たちは応えるだけですし、試合が終わったら学校でもしっかりお礼を伝えて、部員全員で少しずつレベルアップしていって、最終的にはこの大会を優勝したいです」(小嵐)。グループの一体感も確実に醸成されているようだ。

 今シーズンのチームはある“テーマ”を掲げている。内田監督はその内容をこう説明する。「今年のテーマをどうするかといった時に、私が提案したのは『応援したくなるチームになろう』と。今までは『応援されるチームになろう』と言ってきたんですけど、そこから一歩進んで、『ああ、このチームは見ていて本当に応援したくなるな』ということを、たとえば他のチームの関係者の方からも思ってもらえるようなチームになろうということをコンセプトに始めていて、そういうところで自分たちの言動を変えていこうと」。

「または応援団の人たちの仕草も、プレーする選手たち以上に見られるよというのは言ってきたので、そういうところで一体感は出してくれたかなとは思いますけど、もう少し指導が必要かなとも思います(笑)」

 実践学園は基本的にレギュラーのほとんどが3年生で構成され、ベンチメンバーもすべて3年生という年もあるぐらいだが、昨年はその構図が崩れ、少なくない下級生が試合に出場していた。彼らは今年のチームの中核を担う存在ではあるものの、指揮官は昨年のチームへの想いをこう口にしている。

「今年の選手たちに去年の経験を生かしてほしいというのは確かにあるんですけど、やっぱり一番は3年生が強い想いを持って頑張らなくてはいけないと思っているので、逆に言うと去年に関しては不本意なところもあるなと、個人的には思っていたんです。なので、今年は逆に自分たちが試合を経験したことで、去年の3年生に対して『申し訳ない』と感じていた子たちが、1つ学年が上になったことで、より強い想いを持っているのかなという気はします」。

 昨年度の選手権予選では、決勝で國學院久我山高に1-3で敗れ、全国切符はあと一歩でその手から零れ落ちた。あの日、涙を流した先輩たちの想いも背負って、2023年のチームが狙う目標は明確だ。「自分たちの目標は東京都4冠と、各カテゴリーでもリーグ戦で昇格することです」(鈴木)。

「応援されるチーム」から、「応援したくなるチーム」へ。今年の実践学園は変化を恐れず、前だけを向いて進み続ける1年に、足を踏み入れている。



(取材・文 土屋雅史)

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