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背負えるものはすべて背負う。C大阪U-18MF皿良立輝は“10番でキャプテン”の1年を逞しく戦い抜く

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セレッソ大阪U-18の10番でキャプテン、MF皿良立輝(3年=セレッソ大阪U-15出身)

[4.23 高円宮杯プリンスリーグ関西1部第4節 近江高 4-3 C大阪U-18 近江高校第2G]

 同世代の活躍に焦りがないはずはない。柄じゃない役割を担っていることも十分わかっている。でも、全部を引き受ける覚悟は定まった。もちろん自分のためではあるけれど、この大切なチームと、大切な仲間と、2023年の今をちゃんと戦い抜くって、もう決めたから。

「メンバーやチームをまとめるとか、そういうのはあまり得意なところではないですし、ピッチ外のことは自分も勉強しながらやっていこうと考えているんですけど、そこは2人の副キャプテンもやってくれているので、僕はピッチで誰よりも先頭に立ってやっていけたらなと思っています」。

 志願してキャプテンに就任したセレッソ大阪U-18(大阪)のナンバー10。MF皿良立輝(3年=セレッソ大阪U-15出身)は自身の思い描いてきた未来へ近付くために、大きな責任を背負ったアカデミーラストイヤーに足を踏み入れている。

 近江高とアウェイで対峙したプリンスリーグ関西1部第4節。2点のビハインドを追い掛けていた後半25分に、10番は交代を命じられる。ベンチとは逆側のタッチラインからピッチを出て、歩いてくる際に浮かべていた穏やかな表情には、逆に覆い隠したい感情が滲む。

「自分が最後のところで決めたかったという気持ちも、こんな試合をしていてはいけないなという想いもあったので、交代させられたことは納得が行かなかった部分はあります」。悔しさを押し殺して、必死に攻める仲間の姿をベンチから見つめる。試合は3-4で惜敗。開幕から3連勝を飾っていたチームは、今季初黒星を突き付けられた。

 島岡健太監督が新キャプテンの想いを推し量る。「もうちょっと頑張ってほしいですね。あえて言いますけど。キャプテンということが邪魔しているのか、何かしてやろうというのはわかるけど、たぶんもがいていると思います」。

 皿良にも、もちろんその自覚はあった。「今年は10番を付けたいと思っていましたし、もらった時には嬉しかったですけど、そのあとでキャプテンをやることになって、自分では“10番のキャプテン”でも普通にやれるかなと思っていたんです。でも、プリンスの開幕戦なんてプレミアの時より全然ガチガチで(笑)、『ああ、背負っているものがあるな』とその重みを感じたんですけど、今は慣れてきて、何とかできているという感じです」。

 自分でも想像していなかったキャプテンに立候補したのには、理由がある。「監督が『今年はリーダーがいないから、1,2年生にキャプテンをやらせようと思っている』と言われて、『それに意見がある人は言ってきて』ということだったので、それに関しては3年生がやった方がいいと思いますし、『1,2年生に任せるぐらいだったら僕がやります』という話をしに行って、キャプテンになったという感じです。そういうタイプじゃないですけど、頑張ってます(笑)」。

 リーダーにもいろいろな種類がある。自己分析は前述したように「ピッチで誰よりも先頭に立って」やるタイプ。だからこそ、この日のパフォーマンスには納得が行くはずもない。「たぶん自分のプレーも上手くいっていない自覚があるんじゃないかなと。これをどう乗り越えていくかは彼にとって大事なところじゃないかなと思いますね」(島岡監督)。指揮官もブレイクスルーを自ら引き寄せる瞬間のタイミングを、静かに見守っている。



 大きな刺激を受けざるを得ない出来事があった。4月19日。ルヴァンカップで名古屋グランパスのFW貴田遼河が2ゴールを奪い、チームの勝利の主役をさらう。年代別代表でもともに戦っている同い年の友人の活躍に、17歳の心は揺れた。

「凌河とは一緒にやっているので、上手いということはわかっていますけど、2点目は普通に個人技で獲っていましたし、Jでも普通にやれていたということは先を行かれているので、あのルヴァンの試合が終わった後は凄く焦りがあったんですけど、『焦るな』と親に言われました(笑)」。

 ただ、時間が経ち、冷静になってみると、改めて違う感情が芽生えてきた。「凌河はもうJの試合にも出ていて、今は先を超されているんですけど、彼を追い掛けることを目標にするのではなくて、今置かれている立場でやることをやれば、自分はちゃんとできると思っているので、そのあとに結果が付いてきたらなと考えています」。ちゃんとできる自信は携えている。人は人。自分は自分。あとは今求められている結果を出し続けるだけだ。

 昨シーズンのプレミアリーグプレーオフで神村学園高に競り負けたことで、U-18で過ごす最後の1年はプリンス関西が主戦場になった。この日の近江のように、どのチームもセレッソを倒そうと、100パーセントを超えるモチベーションで挑んでくることは容易に想像できるが、それでも違いを見せ続けないと、望んだ未来は手繰り寄せられない。

「まずはプリンスでダントツの1位になることと、個人としても今年は個人技にこだわっていきたいなって。自分がゲームを作って、自分が上手く味方を使って、自分で得点を獲って、違いを見せていきたいです」。

 さらにトーンを上げながら続けた言葉に、皿良の確固たる決意が浮かび上がる。「僕は2年プレミアを経験していますけど、今年入ってきた1年生は僕たちが上げてあげないとプレミアで2年できないわけで、今の2年生も最後の1年はプレミアでやりたいと思っているはずですよね。正直僕たちが最高学年になった時にプレミアで優勝して、ファイナルに行きたかったんですけど、今はもう切り替えているので、プリンスで優勝して、プレーオフにも勝って、プレミアに1年で戻れるような土台を作っていって、来年や再来年でファイナルを優勝してほしいなと思います」。

 背負えるものは、全部背負った。新たなステージへ辿り着けるか否かは、すべて自分次第。若き桜の10番とキャプテンを引き受けた確かな才能。皿良が目の前に高くそびえる壁を力強く乗り越えた時、きっとその視界には見たことのない景色が広がっているはずだ。



(取材・文 土屋雅史)
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