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[MOM4269]修徳FWンワディケ・ウチェ・ブライアン世雄(3年)_鮮やかな延長決勝弾!サッカーのある日常に帰ってきた「みんな大好きブライアン」がエースの仕事完遂!

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修徳高FWンワディケ・ウチェ・ブライアン世雄(3年=FC東京U-15深川出身)はエースの仕事完遂!

[高校サッカー・マン・オブ・ザ・マッチ]
[4.29 関東高校大会東京都予選準決勝 修徳高 1-0(延長) 駒澤大高 駒沢第2]

 それはまさにエースの仕事だった。0-0で突入した延長戦。味方が懸命にボールを繋ぎ、自分目がけてボールが送られてくるのを確認すると、もうそのあとのことはハッキリと確信したという。

「クロスが上がった瞬間は、もう入るのはわかりました。ヘディングには自信を持っているので。ゴールが入った時は、安心しましたね」。

 サッカーのある日常に帰ってきた「みんな大好きブライアン」。修徳高の9番を託されたストライカー。FWンワディケ・ウチェ・ブライアン世雄(3年=FC東京U-15深川出身)の決勝ゴールが、チームを18年ぶりの関東大会出場へ力強く導いた。

 チームは苦しんでいた。駒澤大高と対峙した関東高等学校サッカー大会東京都予選準決勝。相手の誇る強度の高い守備と素早いアプローチに、修徳はなかなか攻撃の糸口を見い出せない。ンワディケも「もうちょっと相手のディフェンスラインの前の方でボールを受けて、リズムを作りたかったんですけど、それはあまりできなかったです」と前半の40分間を振り返る。

 ただ、キラリと光るシーンもあった。前半終了間際の40分。CKのスポットに立つMF小俣匠摩(3年)の近くへスルスルと近寄ると、ショートで蹴られたボールを受け、そのままピンポイントクロス。ニアで合わせたFW大畑響道(3年)のヘディングはゴール右へ外れたものの、「クロスは結構得意で、必ず良いボールを上げられると思っていますし、自分が上げた方がチャンスになると思ったので、クロスを上げに行きました」という189センチの長身ストライカーが、正確なキックでチャンスを演出する。

 惜しいシーンもあった。後半30分。カウンターで左サイドを抜け出したFW田島慎之佑(3年)から完璧なクロスが届くも、走り込んだンワディケの右足ボレーはヒットせず、枠の右へ。延長前半2分にも田島の左クロスに、懸命に飛びついたヘディングは枠を捉えるも、当たりが薄くなってGKに防がれる。

 だが、獲物を仕留めたのはそれから2分後だ。延長前半4分。右サイドからMF高島陸(2年)のクロスが上がってくると、舞い上がったンワディケが頭で叩いたボールは、ゴールネットを確実に揺らす。「この大会の修徳は今まで応援団がいなくて、今日初めて応援してくれたことが嬉しかったので、あそこまで行きました」。全速力で駆け寄ってきた殊勲のエースに、スタンドから大歓声が送られる。



「後半に入ってだんだん修徳に流れが来ていて、チャンスも来ていたんですけど、外したりしていたので、最後に決められて良かったです」。苦しみながらも、この1点がそのまま決勝点。ンワディケの“頭”が、関東大会への出場権を粘り強く手繰り寄せた。

「身長も170センチぐらいで、右サイドハーフのドリブラーでした」という中学時代はFC東京U-15深川でプレーしていたが、3年生になったばかりの頃、思わぬ病気に見舞われてしまう。「別の場所が痛かったんですけど、MRIを撮ったら見つかった感じです」と自ら振り返るのは“大腿骨頭すべり症”。プロ野球選手のオコエ瑠偉(読売ジャイアンツ)も患った、大腿骨の成長盤が股関節から離れてしまう難病だ。

 身体を動かせないため、体幹を鍛えるトレーニングや筋トレに励んでいたものの、再びボールを蹴ることのできるタイミングはなかなか訪れなかった。そんなンワディケのことを気に掛けていたのが、修徳の指揮官を務める吉田拓也監督だ。

「ブライアンがジュニアの時にいた一之江キッカーズというチームの監督さんと、活動している地域が同じで仲が良かったので、お母さんと一緒に相談を受けたんです。入学する時には『もしかしたら2,3年はサッカーできないかも』と言われていたんですけど、かわいいヤツなので『ウチに来たら試合に出られなくても楽しくやろうよ』というスタンスで来てもらいました。だから、選手として獲りに行ったわけではないんです。プレーも見たことはなかったですしね」(吉田監督)。

「不安はあったけど、卒業したら必ずプロになるという想いで」修徳高へ入学すると、大腿部にボルトを入れることでプレーが可能になり、しばらくは練習をしていたものの、なかなか身体が安定しなかったため、今度はボルトを抜く手術に踏み切り、再び半年間の離脱。結局2年近くもサッカーが近くにある日常を送ることは叶わなかった。

 2年生に進級し、ようやく普通に練習できるようになった一方で、「休んでいる間に身長が15センチぐらい伸びてしまったので、復帰した時に足の幅の感じが違って、感覚を掴むのが大変でした」と振り返るように、190センチに迫る体躯を持て余し気味だったが、スタッフ陣が辛抱強く1年間を通じて試合に起用し続けたことで、心身両面で着実に成長。また、通常の練習以外にも筋トレやランニングに取り組むことで、本人も少しずつ身体の感覚が掴めてきているそうだ。

 既にJクラブの練習にも参加済み。だが、そこでは明確な課題が見つかったという。「プロは普段の倍ぐらいプレーのスピード感が違って、ワンタッチのコンビネーションの中で動き続ける体力が必要だなって。自分にはそれがなかったので、今はそれに対応できるようにトレーニングしています。ポストプレーを収めるところまでは通用するんですけど、落としてからの動き出しやもらう動きが課題です」。貴重な経験は自らの目線を一段階も、二段階も、引き上げてくれた。

 吉田監督はンワディケの人間性にも触れつつ、今後への期待を隠さない。「ブライアンはもっと良くなると思います。アイツは聞く力があるんです。自分にとって嫌なことを言われて、その場では少しふてくされても、あとで『すみませんでした』と言えるんです。人の話を聞けるヤツなので、みんな応援していますよ。僕だけじゃなくて、仲間も、他の指導者も、『みんな大好きブライアン』みたいな感じです(笑)」。

 今大会は2回戦の正則学園高戦でハットトリックを達成。準々決勝の成立学園高戦の1得点に続き、この日もきっちり2戦連発のゴール。「最近は『来てるな』って感じです」と笑いながら言い切る表情に、充実している現状が垣間見える。

 よく見ている選手に、ブレントフォードのFWイヴァン・トニーを挙げるくらいのサッカー通。とりわけプレミアリーグへの憧れは強く、ゆくゆくはその舞台に立つことももちろん自分の中ではイメージしている。

 サッカーが当たり前にプレーできる喜びを、日々噛み締めている七夕生まれの17歳。復活を遂げた『みんな大好きブライアン』。ンワディケ・ウチェ・ブライアン世雄の秘めたる実力は、きっとまだまだこんなものではない。



(取材・文 土屋雅史)

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