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いままでとこれからを繋ぐ新スタイルの進化。実践学園は東海大高輪台をPK戦で振り切って関東大会へ!

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実践学園高は激闘をPK戦で制して関東大会へ!

[4.29 関東高校大会東京都予選準決勝 実践学園高 1-1 PK4-2 東海大高輪台高 駒沢第2]

 まったく違うことをしているわけではない。あえて表現するのであれば“バージョンアップ”といったあたり。180度の方向転換ではなく、もう少し緩やかな角度で、新しいことに取り組んでいるイメージだろうか。

「もちろん堅守速攻というベースはある中で、このポゼッションのスタイルが浸透してきているかと言ったらまだまだなんですけど、1試合1試合を経て少しずつやれている感覚はありますね」(実践学園高・鈴木嘉人)。

 いままでとこれからを繋ぐ新スタイルの進化の跡を裏付ける、堂々の4連勝。関東高等学校サッカー大会 東京都予選は29日に準決勝を行い、実践学園高東海大高輪台高が激突したゲームは、前半にMF鈴木陸生(3年)のゴールで実践学園が先制したものの、東海大高輪台も後半にキャプテンのDF生駒匡悟(3年)が執念の一撃で同点に。最後はPK戦を制した実践学園が、2年ぶりとなる関東大会出場を決めている。

 ゲームはお互いに主導権を探り合う形でスタートする。「もうちょっとハイプレスに来ると思っていたんですけど、結構回せましたね」とキャプテンのDF鈴木嘉人(3年)も話した実践学園は、その鈴木嘉人とDF山城翔也(3年)の両CBが丁寧にビルドアップしつつ、対角へのフィードを供給。受けた右のMF関根宏斗(3年)、左のMF松田昊輝(3年)のサイドハーフが果敢にドリブル勝負を挑み、攻撃のテンポを生み出していく。

 一方の東海大高輪台は、シャドーの位置に入った10番のMF佐藤将(3年)と右サイドハーフのMF山本風雅(2年)がドリブルでアクセントを創出しながら、「今はカウンターでガンガン行くのが多いですね」と川島純一監督も認めるように、縦に速いアタックに活路。前半24分には山本のドリブルを起点に、DF吉澤優冴(3年)が右へ振り分け、MF廣恒龍(2年)の折り返しをMF吉田蓮(3年)が叩いたシュートは枠を逸れるも、スムーズな連携をフィニッシュまで結び付ける。

 実践学園は27分にDF藤枝優大(3年)のパスから、FW小嵐理翔(3年)が迎えた決定機は、東海大高輪台GK坂岸良太郎(3年)のファインセーブに阻まれるも、その堅い相手の守備を打ち崩したのは40+1分。左サイドの深い位置までドリブルで切り裂いた松田が中央へ戻すと、こぼれたボールに3列目から16番が飛び込んでくる。「今日は『ゴールを決める』という気持ちを持った状態で入ったので、どんな形であってもシュートチャンスがあったら振ろうと思っていました」という鈴木陸生の先制弾。前半終了間際に実践学園がスコアを動かし、最初の40分間は終了した。

 後半もゲームリズムは実践学園。シャドー気味に構えるMF大塚康生(3年)もボールを引き出し、前線の小嵐と両サイドの関根、松田を駆使したアタックを繰り出すも、「去年の経験もあるんですけど、守備が予想以上に評価できましたね」と川島監督も認める東海大高輪台も、右から吉澤、生駒、DF岡田朋也(3年)、DF小美野崇(2年)が並んだ4バックに、本来はサイドバックながら中盤センターを任されたMF葛島楽歩(3年)を軸にディフェンス陣が奮闘。最後の局面でピンチの芽を粘り強く摘んでいく。

 後半28分。キャプテンの意地が炸裂する。左サイドで獲得した東海大高輪台のFK。葛島が丁寧に蹴り込んだボールを、ファーサイドから吉澤が折り返すと、吉田のヘディングはクロスバーに跳ね返るも、頭から突っ込んだ生駒が身体でボールをゴールへ流し込む。「あの折り返しがすべてでしたね。吉澤はちょっと前半の終わりに失点に絡んじゃったけど、よく自分で取り返したなと」(川島監督)。1-1。スコアは振り出しに引き戻される。



 終盤に追い付かれた実践学園は、それでも冷静だった。「1回戦、2回戦と失点してから逆転しているので、正直今のチームは失点しても大丈夫というか、焦りはないですね」(鈴木嘉人)「1回戦と2回戦も失点している上での展開でしたし、ある意味失点しても余裕はありました」(鈴木陸生)。35分と36分には小嵐が、39分にはCKから大塚が、40+4分にはFKからFW犬飼椋太(3年)が次々とシュートチャンスに顔を出し、いずれも勝ち越しゴールには至らなかったが、攻撃的な姿勢は崩さない。ただ、80分間では決着付かず。試合は前後半10分ずつの延長戦へと突入する。

 延長はどちらにも決定機があった。延長前半4分は東海大高輪台。吉田が右サイドへ好フィードを送り、走ったFW川上空(2年)の折り返しに、フリーで走り込んだFW藤本和冴(3年)のシュートはわずかに枠の上へ。8分は実践学園。左から関根が蹴ったCKに、鈴木嘉人がドンピシャヘッド。枠へ飛んだ軌道は、しかしゴールカバーに入った吉田が決死のクリア。延長後半6分も実践学園。DF峰尾燎太(2年)のパスから、左へ持ち出した鈴木陸生のシュートは、岡田が身体でブロック。100分間を終えたスコアも1-1。勝敗の行方はPK戦へと委ねられた。

 実は両者は昨年度の高校選手権予選の準決勝でも対峙し、その時もPK戦までもつれ込んでいる。「選手権の準決勝でも同じ流れで勝っていて、それは自分の中にあったので、PK戦に入っても勝てるなという印象はありました」とは鈴木嘉人。その時は実践学園が勝利したが、今回もその流れは繰り返される。

「PKも当然想定して、練習終わりにしっかり蹴り込んできましたし、鈴木(祐輔コーチ)が特にそういう細かいところは詰めていますから」と内田尊久監督も話した実践学園は4人全員が成功。「みんなしっかり蹴れてはいたから、練習はウソをついていないし、そこは評価できるかなと思います」と川島監督が口にした東海大高輪台は、2人がクロスバーにぶつけてしまう。

「タフなゲームになるだろうなとは思っていたんですけど、高輪台さんも凄く良いチームなので、本当に魂のぶつかり合いだったのかなという気はします」(内田監督)。実践学園がPK戦までもつれ込んだ『魂のぶつかり合い』に競り勝って、2年ぶりの関東大会出場を逞しく手繰り寄せる結果となった。

 前述してきているように、今シーズンの実践学園は少し今までのイメージとは異なるスタイルに取り組んでいる。「縦に速いというよりは、自分たちでしっかりボールを保持して繋いでいくサッカーをやっているので、この大会もどの試合も自分たちが支配できているなという感覚は自分の中でありますし、自分たちがボールを持っている方が、やっていてもちろん楽しいですね」とはセンターバックの鈴木嘉人。新たにチャレンジしている代物に自信を持つには、やはり結果が大事。そういう意味では、多少のリスクを負いつつトライした戦い方で関東大会の出場権を手にしたことは、間違いなくポジティブな成果だと言えそうだ。

 だが、今シーズンから指揮を執る内田監督は今大会のここまでについて、少し渋い顔でこう語っている。「彼らは自分たちで高い目標を設定しているので、今日の試合を振り返ると『その目標は全然達成されないよ』というところだと思うんですよね。まずは決め切れるところを決め切れていないのが今日のゲームの一番大きなところだと思うので、そこをどう決めるかをこれから詰めていかないといけないですし、ああいう魂を込めて来るチームに失点をしてしまっているので、上のレベルに行けばアレが普通ですし、失点した部分を修正していかないと、とは感じました」

「あとは僕が結果を出したわけではないですし、彼らが頑張って勝ち獲ったものなので、僕がどうこうというのはまったくありません。そういうことより、今年のテーマである『応援したくなるチーム』になれているかというところにしか、僕は着眼点がないので、そういう意味ではまだまだだなというところでしかないですかね」。目指すところはここではない。選手たちが掲げた目標を本気で達成するのであれば、ブレない新指揮官に妥協するつもりなんて毛頭ない。

「自分たちの目標は東京都4冠と全国ベスト4進出で、あとは各カテゴリーでもリーグ戦の昇格というのも目標です」とキャプテンの鈴木嘉人は言い切っている。まだこの大会は終わっていない。狙うは都内4冠の“1冠目”。1週間後に組まれているファイナルでも、実践学園は関東大会予選の東京制覇を、もちろん真剣に狙いに行く。



(取材・文 土屋雅史)

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