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自分たちで積み上げてきたのは「点を獲る形」。6戦21発の神村学園はこの日も履正社相手に4点を奪ってアグレッシブな“攻め合い”を制す!

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神村学園高は前半に4ゴールを奪って勝利を手繰り寄せる!

[5.13 高円宮杯プレミアリーグWEST第6節 神村学園高 4-1 履正社高 OSAKO YUYA stadium]

 打ち合い上等。3点獲られても、4点獲られても、相手より1点でも多く獲ってしまえば、勝利という目標は達せられる。ならば、楽しく攻めて、楽しく点を獲って、楽しく勝った方が、みんなにとってハッピーだ。

「僕らはどっちかと言うと、引き分けはいらないと思っているので、点を獲れないと勝てないとなった時に、今はプレミアの中でも点が獲れていて、6試合で21点となると、もう1試合で3点以上は獲っているわけで、やっぱり自分たちで点を獲る形を積み上げては来ているので、勝つ方向には持っていけているのかなと思います」(神村学園高・有村圭一郎監督)。

 積み上げてきた『点を獲る形』で、4ゴールを奪い切っての快勝劇。13日、高円宮杯 JFA U-18 サッカープレミアリーグWEST第6節、神村学園高(鹿児島)と履正社高(大阪)が激突した一戦は、前半でDF新垣陽盛(2年)、MF平野あいと(3年)、FW西丸道人(3年)、MF名和田我空(2年)と4人がゴールを重ねた神村学園が、履正社の反撃を1点に抑え、4-1で勝利。今シーズン4つ目の白星を積み上げている。

 最初の決定機は履正社。前半3分。レフティのMF井戸口晴斗(3年)が蹴り込んだ右CKにDF石塚蒼空(3年)が合わせたヘディングはGKを破るも、カバーに入った新垣が頭で何とかクリア。直後に再び井戸口の右CKから、今度はDF森毅稔(3年)が放ったシュートは、神村学園のGK川路陽(3年)がファインセーブで凌ぐ。

 すると、逆にセットプレーを生かしたのは神村学園。12分。左サイドから名和田がファーサイドへ蹴り込んだボールに、飛び込んだ新垣のヘディングはGKも弾き切れず、ゴールネットへ吸い込まれる。「身長はあまり大きくないですけど、空中戦には強みを持っています」と言い切る“神村のリサンドロ・マルティネス”が、守備の“頭”に続いて、今度は攻撃の“頭”で一仕事。早くもスコアは動く。

 畳み掛けるホームチーム。先制から1分後の13分。カウンターから西丸が左サイドへ展開すると、ボールを受けたDF吉永夢希(3年)は「キーパーとディフェンスの間に速いボールを入れることを意識して」最高のグラウンダークロス。これを平野が難なくゴールへ押し込み、神村学園のリードは2点に広がった。

 ただ、それでも全体のゲームリズムは履正社にあったと言っていいだろう。28分には井戸口のスルーパスからFW宇都宮翔菜太(3年)が、29分にはMF木村有磨(2年)の左クロスからMF倉田竜雅(3年)が、それぞれ決定的なシーンを迎えたものの、「相手との駆け引きでシュートコースを狭めて、体に当てられた判断が良かったかなと思います」と振り返る川路が、どちらもビッグセーブで回避してしまう。

 38分。次の得点を記録したのも神村学園。名和田とのワンツーを経て、MF福島和毅(1年)が左へ展開。吉永のグラウンダークロスを、ファーで待っていた西丸が丁寧にゴールへ流し込み、開幕から6戦連発となる今季11ゴール目を挙げて、3-0。

 45分。西丸からパスを引き出した吉永は「余裕を持ってクロスを上げられたのかなと思います」とここも完璧なクロスを中央へ届け、「ニアに行ってからファーに逃げるような動きでフリーになれた」と振り返る名和田の冷静なシュートが、右スミのゴールネットを貫いて、4-0。「予想以上に吉永くんのクロスが良かったです」と履正社を率いる平野直樹監督も言及したように、吉永は前半だけで驚異の3アシストを達成。意外な大差で、最初の45分間は終了した。

 後半も攻め合いの構図は変わらない。12分は神村学園。ここも吉永が鋭いクロスを蹴り入れ、名和田が枠へ収めたヘディングは履正社のGK植野麟兵(3年)がファインセーブ。17分は履正社。左サイドの深い位置まで侵入した倉田が中央へ折り返すも、飛び出した川路が体に当ててセーブ。「今日はアイツがだいぶピンチを防いでくれましたね」と有村圭一郎監督も認める守護神の存在感が、強い風雨に晒されたピッチで一際輝く。

 25分は神村学園。途中出場のMF金城蓮央(2年)が左へ流し、名和田がとっさの判断で浮かせたループシュートはクロスバーにヒット。27分は履正社。右サイドで獲得したFKを宇都宮が放り込み、キャプテンの石塚が打った枠内ヘッドは川路がファインセーブ。29分も履正社。左サイドを単騎で運んだ倉田が、そのまま打ち切ったシュートはやはり川路が丁寧にセーブ。「相手のキーパーが本当に良かったですね」とは平野監督。神村学園の1番がゴールに鍵を掛け続ける。

ファインセーブを連発した神村学園高の守護神、GK川路陽


 アウェイチームが意地を見せたのは38分。後半から登場したMF安羅夕雅(3年)が右へパスを送り届け、走った森のクロスは完璧な軌道を描いて中央へ。走り込んだFW河野朔也(3年)が頭で押し込んだボールが、とうとうゴールネットへ到達。「最後の失点が良くなかったです。悔しいですね」(川路)「やっぱりゼロとイチでは全然違うので、本当にもったいない失点でした」(新垣)。履正社が執念でもぎ取った1点で、神村学園はまたしても無失点勝利を逃してしまう。

 とはいえ、ファイナルスコアは4-1。「いつもそうなんですけど、ウチが勝っていてもおかしくなかったですし、負けていてもおかしくなかったという試合でしたね」と有村監督も口にした内容のゲームは、シュート数自体は履正社のほぼ半分だった神村学園が『点を獲る形』を最大限に生かして、勝ち点3を手繰り寄せる結果となった。

 2-3、5-2、5-3、4-2、1-3、そして4-1。ここまでのプレミアでの6試合のスコアを見ても、神村学園の試合は常に点が激しく動く。

 有村監督の言葉が印象深い。「とにかく勝ちを狙うためには点数を獲りに行かないといけないですし、0-0を3試合続けても1勝と勝ち点は一緒ですもんね。そう考えたら攻めたいですし、いろいろなチームの先生にも最近は『オマエは攻めたらいいじゃん。守る気ないやろ』みたいなことを言われるようになってきて、守る気はあるんですけど(笑)、僕からすれば点数を獲りに行くことが魅力なんですよね」。

「子どもたちもそれが楽しいと思ってやっていますし、本当に勝負のところになると、『点数を獲りに行くために守らなあかんやろ』というところもありますし、そういうのもだんだんと落としてはいくんですけど、今の段階は競い合って、点数を獲り合って、相手より1点でも多く獲るという感じの部分でやっています」。

 ここまで6試合で11得点というハイペースでゴールを量産している西丸も「『神村学園と言ったら失点が多い』みたいなイメージが去年からありますし、今年も全試合失点してしまっていますけど、失点しても点を獲れば勝てるので、3失点してもオレが4点獲るしかないという気持ちで試合に入るようにしています」ときっぱり。キャプテンからしてこのメンタルなのだから、チームのマインドも推して知るべしだ。

 もちろん指揮官も現状での課題は理解している。「あとは意識しなければいけないのは明らかに守備なので、良いところを自信にして、守備のところの認識をもうちょっと強めてやれれば、もうちょっと良いチームになるかなと思います」。だが、一方でこの時期だからあえてこういう戦いを志向している側面も口にする。

「ゼロに抑えよう、ゼロに抑えようとすると、ディフェンスも凄く消極的になって、結局やられるんですよ。それならば、もっとトライしてやられちゃった方がいいんじゃないかなって。こっちももっとアイツらが気楽にバチッと行けるように、『そもそもオマエらがゼロで抑えられるなんて思ってもないし』みたいな発言をするようにはしています」。

 要するに、今はやれることとやれないことを見極めるために、あえてトライを繰り返しているフェーズだということ。決して守備をおろそかにしているわけではなく、これから待ち受けている勝負の懸かったキーゲームに打ち勝てるように、まずは攻撃の自信を纏うための戦いに針を振っているというわけだ。

「いろいろ言われずに自由にやらせてもらって、その上でミスを指摘して戴けるというのは自分たちが一番やりやすいですし、そういう時の方が勝てることが多いので、今は凄く良い条件でやらせてもらっているかなと思っています」(西丸)

 自覚的に打ち合って、勝利を重ねていることも、このスタイルを深化させていく。楽しく攻めて、楽しく点を獲って、楽しく勝つ。とにかくアグレッシブに前へ向かい続ける神村学園の試合が、面白くならないはずがない。

神村学園高を率いる有村圭一郎監督


(取材・文 土屋雅史) 
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