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[MOM4290]鳥栖U-18FW渡邊翔音(2年)_自ら打ち鳴らした「始まりの号砲」。“鳥栖のウサイン・ボルト”が意外な形でプレミア初ゴール!

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プレミア初ゴールを挙げたサガン鳥栖U-18FW渡邊翔音(2年=サガン鳥栖U-15出身、23番)

[高校サッカー・マン・オブ・ザ・マッチ]
[5.14 高円宮杯プレミアリーグWEST第6節 鳥栖U-18 1-1 広島ユース 佐賀市健康運動センターサッカー・ラグビー場]

 自分にできることも、自分に求められていることも、そんなのは自分が一番よくわかっている。走って、走って、走ること。それだけはやり続けなくてはいけないし、それだけは絶対に誰にも負けたくない。

「スピードはみんなより速いとは言われているので、そこを生かして、前からのプレッシングや背後の抜け出しをやっていくところは、プレミアでも少し通用しているのかなと自分でも思います」。

 逞しく頭角を現しつつある、サガン鳥栖U-18(佐賀)のスピードスター。FW渡邊翔音(2年=サガン鳥栖U-15出身)が手繰り寄せたプレミアリーグ初ゴールは、これから駆け上がっていく道のスタートラインで自ら打ち鳴らした、『始まりの号砲』だ。

 それは抜擢と言っていい起用だった。横浜FCユースをホームに迎えた前節のリーグ戦。それまでは残り10分を切っての途中出場が続いていた渡邊は、スタメンリストにその名前を書き込まれる。

「ウチの前線の選手はもちろん下手ではないんですけど、今までは前への推進力が少なかったので、彼の前への推進力というところは凄く武器になるのかなと思って起用しました」とは田中智宗監督。後半アディショナルタイムまでピッチを駆け回り、その走力で勝利に貢献した23番は、それでも改めて課題を見つめていた。

「サイドバックやセンターバックが持った時の背後への抜け出しが足りていなかったのと、競って後ろにパスを出したりすることはできるんですけど、収めることができないので、そこはもうちょっと身体にパワーを付けていきたいと思いました」。ただ、それも実際に試合の中で体感できたからこその経験。田中監督はこの日のサンフレッチェ広島ユースとの一戦でも、渡邊をスタメンに指名する。

 それは少し不思議な得点だった。「アレは練習していた形で、(林)奏太朗くんから来る中へのボールを、背後に抜けてヘディングで決めるという形を日高さん(日高拓磨コーチ)に教えてもらっていたので、あそこに抜けてヘディングで打ったんですけど、自分が考えていた理想の形ではなかったですね」。前半15分。林のフィードに渡邊が頭で合わせた軌道は高く上がり、相手のGKも見送りかけたように見えたが、結果的にボールはゴールの中へしっかりと転がり込む。

「ボールが結構上に行っていたので、『ラインを出たのかな』と思って自陣に戻ろうと思っていたら、みんなが『入った!』みたいな感じで喜んでいたので、自分も喜びました(笑)。嬉しいんですけど、メチャメチャ嬉しいというよりは、次は理想の形で決めたいと思いました」とは本人だが、もちろんゴールはゴール。渡邊のプレミア初得点で鳥栖U-18が先制する。

 だが、ゲームは後半に追い付かれ、終盤は押し込む時間も作ったものの、終わってみれば1-1のドロー決着。フル出場した渡邊も「前半の途中からバテてしまって、体力面としてもまだ全然上がっていないので、そこをもっと付けていかないといけないのと、背後への抜け出しのところで、自分はパスを出された後に走っていたので、そこを自分からアクションできるようにしていきたいです」と言い切っており、この日の90分間からも新たな気付きを得たようだ。

「スピードはもちろん、ジャンプをしてもそうなんですけど、身体的な能力は凄いんです。でも、まだまだ覚えていかなくてはいけないことも、できるようにならないといけないこともたくさんあるという選手ですね。ただ、できないこともハッキリしていますけど、相手にとっては凄く嫌だろうなと。期待値込みで使っています」(田中監督)。

 指揮官の言葉通り、そのスピードと献身性は間違いなく相手にとって厄介な代物。この日もハイプレスで相手GKのクリアを身体に当てるシーンも作り出しており、ピッチサイドからは『鳥栖のウサイン・ボルト!』という声も。これから身に付けるべきものは少なくないかもしれないが、持っているスペシャリティには誰もが期待したくなることも、また間違いない。

 トップチームの試合を見て、自身の持ち味でもある裏への抜け出しを研究する中で、参考にしているのは岩崎悠人。躍動感あふれる走り方でサイドを駆け上がる姿に自分を重ねつつ、それを結果に直結させられるようにイメージを膨らませている。

 記念すべきプレミア初ゴールについて尋ねた時、渡邊は「次は理想の形で決めたい」と言い切った。改めて自分の“理想の形”を問うと、すぐに答えが返ってくる。「背後へ抜け出して、センターバックを置き去りにして、キーパーとの1対1を冷静に決めたいです」。

 きっとそんなシチュエーションも、近いうちに必ずやってくるだろう。次こそは“理想の形”で、完璧なゴールを。もう思い描く未来へと向けて走り始めてしまった渡邊が、立ち止まることは決してない。



(取材・文 土屋雅史) 
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