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泥臭く、ちょっとずつ、着実に描き続ける成長曲線。横浜FMユースは今季初の3得点で流経大柏を撃破!

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横浜F・マリノスユースはMF飯村太基(17番)がダメ押しの3点目をゲット!

[5.27 高円宮杯プレミアリーグEAST第8節 横浜FMユース 3-1 流通経済大柏高 横浜国立大学フットボール場]

 一足飛びにできる成長なんて、もちろんあるはずがない。失敗して、悩んで、苦しんで、それでも前へ進んでいこうとするからこそ、少しずつ成功体験が付いてきて、それがグループの自信になっていく。それは今シーズンの若きトリコロールも例外ではない。

「確実に成長していますね。見ている方の物足りなさは十分に理解していますけど、今日のゲームも良いところはかなりありましたし、あれをもっと圧倒させたいなというだけで、初戦から比べれば成長曲線は描けているかなと。ちょっとずつは良くなっています」(横浜F・マリノスユース・大熊裕司監督)

 着実で、確実な進歩を証明する快勝劇。27日、高円宮杯 JFA U-18 サッカープレミアリーグEAST第8節、横浜F・マリノスユース(神奈川)と流通経済大柏高(千葉)が対峙した一戦は、2点を先行した横浜FMユースが、流経大柏に1点を返されたものの、終盤に追加点を挙げ切って3-1で勝利。無敗を4試合まで伸ばしている。

「前半の立ち上がり20分ぐらいは、自分たちのペースでできましたね」とボランチのMF上西遥喜(2年)が振り返ったように、先にペースを掴んだのはホームチーム。右からDF舩木大輔(3年)、DF畑野優真(3年)、DF埜口怜乃(2年)、DF池田春汰(3年)とプレミアでの経験も豊富な4バックに、この試合がプレミアデビューとなったGK鈴木魁(1年)も加えて、今季の特徴でもある丁寧なポゼッションから、中央へ差し込むチャンスを窺う。

 すると、スコアが動いたのは13分。ここはシンプルに埜口が打ち込んだロングフィードが嫌らしいところに落ちると、流経大柏ディフェンスに連携の乱れが生じ、この隙を見逃さなかったFW大當侑(3年)が確実にボールをゴールネットへ送り届ける。1-0。横浜FMユースが1点のアドバンテージを手にした。

 畳み掛けるトリコロール。17分に後方のフィードを引き出し、左サイドを得意のドリブルで運んだMF白須健斗(2年)が中央へ折り返し、「前節も前に行く状況が少なくて、結構いろいろな人から『もっと前に行った方がいいよ』と、それこそ親にも言われました(笑)」という上西が3列目から飛び出し、冷静なフィニッシュ。横浜FMユースのリードは2点に広がる。

 追い掛ける展開を強いられた流経大柏は、なかなか前からの守備がハマらない状況を見て、前半のうちにMF笠松良緒(3年)とMF堀川由幹(2年)を投入して改善を図るも、30分には横浜FMユースにまたも決定機。MF望月耕平(2年)の完璧なスルーパスに大當が抜け出すと、ここは流経大柏のGK土佐昂清(3年)がファインセーブで回避。「チームとしてもボールの繋がり、人と人との繋がりという意味では、今年で一番良かったです」と畑野も口にした最初の45分間は、2-0で推移した。

 だが、もちろん流経大柏がこのまま終わるはずがない。後半開始からさらにMF亀田歩夢(2年)を投入すると、後半6分には最後方からDF塩川桜道(3年)が果敢にドリブルで持ち上がり、亀田のパスからキャプテンのMF中田旭(3年)が放った枠内シュートは鈴木がキャッチするも好トライ。13分にも笠松のプレスから高い位置でボールを奪い、FW柚木創(2年)のシュートはクロスバーにヒット。「後半の入りは良かったですよね」と榎本雅大監督も認めたように、改めてアクセルを踏み込み直す。

 勢いの結実は23分。右サイドで獲得したCKをDF田中ショーン涼太(3年)が蹴り込むと、最後はゴール前の混戦から中田がトライしたバイシクルが、ゴール左スミヘ鮮やかに吸い込まれる。3試合ぶりにスタメン復帰した頼れるキャプテンが追撃のゴール。2-1。点差はたちまち1点に。

「後半は相手に押し込まれる状況が多くて、苦しい時間で失点してしまいましたね」(上西)「後半は相手が来る中で、前への選択肢が多くなったので、ボールがボランチを通り越していってしまった感じでした」(MF桑原颯太)。「後半は相手も来るのがわかっていて、1点獲られて押され気味になってしまったので、思ったサッカーはできなかったです」(畑野)。

 上手く行っていない状況は、みんなが良くわかっていた。選手間で明確な改善策は持ち合わせていなかったが、それでも横浜FMユースは耐える。そして、ベンチも交代策は施さない。「もっと『こうやれよ』と言えば簡単なのかもしれないですけど、そうするとなかなか気付きも少ないですから」(大熊監督)。ピッチ上からは各々のポジティブな声が聞こえてくる。苦しいには決まっているけれど、チームのベクトルは間違いなく勝利という1つの目的に向かっていた。

 36分。横浜FMユースの左CK。自ら蹴ったボールを、再び左サイドで引き出した上西は、「最初は中に上げようとしたんですけど、相手に切られてしまって、よく大熊さんからも『スクリーンしろ』と言われているので、スクリーンしたら前が空いていたんです」と鋭いターンから縦に持ち出し、速いクロス。突っ込んだMF飯村太基(3年)のシュートがゴールネットを泥臭く揺らす。

 ファイナルスコアは3-1。「今年のチームはあまり点が獲れていなくて、やっぱりみんなが泥臭くやらないと点が獲れないと思うので、そこで3点獲れたのは大きいと思います」(桑原)「同じ2-1になってから、FC東京戦は終盤にやられても守り切った感じですけど、今回は3-1で勝てたというのは、チームとして凄く大きかったなと思います」(畑野)。難しいゲーム展開にも、今季最多の3ゴールを記録し、きっちり勝ち切った横浜FMユースの選手たちの笑顔がピッチで弾けた。



 試合後。開口一番「相当フラストレーションの溜まる試合でした(笑)」と語った大熊監督は、こう言葉を続ける。「2-1からもう1点獲れて勝てたことはポジティブですけど、やっぱりもっと圧倒しなきゃいけないと思います。もっと自分たちにクオリティがあれば楽な試合になりますし、もうちょっとゲームの流れを読み取るというところは、改めて全体的にやっていかないといけないかなとは思いました」。

 もちろんそれは選手たちが、ピッチの中で獲得していかなくてはいけない感覚だ。「彼らはやっぱりトップチームに行かないといけないので、トップの満員の観客の中で、コーチのコーチングだけで動いていたら判断できる選手にならないですよね。週末が終わって、このゲームの振り返りをやって、その中で彼らが学んでいって、またゲームの中でみんなの中に気付きがあるのが良いと思っていて、ちょっとずつ変化を促せればいいなと。ただ、時間はないので、当然スピード感は上げていかないといけないですし、そのバランスは大事だと思っています」(大熊監督)。指揮官はもちろん目の前の勝利を希求しつつ、それと同時に、あるいはそれ以上に、選手が自ら『気付くこと』を促し続けている。

 畑野ももちろんその意図は十分過ぎるほどわかっている。大熊監督の『もっと圧倒しなきゃいけない』という意の言葉を伝えると、「僕らのサッカーにゴールはないと思っていますし、特に高校年代はどんどん成長できる年代なので、どれだけ良いサッカーをして10-0で勝ったとしても、それで終わりではなくて、チャンスを全部決めていれば15点や20点だって入るわけで、そこで今日だけいいという形で終わってしまっては、次の試合に生きないので、大熊さんが言っていることは正しいと思いますし、それはチームとしてもっと上に行かないといけないという、期待の現れだと感じているので、そこは言われて当然の試合内容かなと思っています」ときっぱり。きっと週明けにはみんなで新たな“気付き”を共有するはずだ。

 桑原が2023年のチームが纏い始めている特徴を、自身の言葉で表現してくれた。「今年は個で20点も獲れる選手はいないので、全員が泥臭くやることを統一する必要があると思います。最近はみんな声も出るようになっていますし、チーム力は間違いなく上がっているので、これからも“泥臭く”という部分がベースにあれば、必ず成長できますし、実際に成長しているので、あとは点を獲って、守って、勝つだけですね」。

 ちょっとずつ、でも、着実に、泥臭く、逞しく。若きトリコロールが描き始めている成長曲線は、きっと今年も多くの“気付き”を得て、上へ、上へと、彩り豊かに伸び続けていく。



(取材・文 土屋雅史) 
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