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「22+1+11」の鉄人右サイドバック。昨季からプレミア全試合スタメンの川崎F U-18DF江原叡志がこのチームにいることの価値

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苦しんだ末の勝利に笑顔を見せる川崎フロンターレU-18DF江原叡志(3年=川崎フロンターレU-15出身)

[7.8 高円宮杯プレミアリーグEAST第11節 川崎F U-18 1-0 FC東京U-18 保土ケ谷]

 その名前がスタメンリストに書き込まれないということは、まずありえない。チームが躍動している試合はもちろん、仲間たちがどれだけ苦しい状況に追い込まれている時でも、フロンターレの右サイドには90分間に渡って水準以上のプレーを繰り出し続ける、この男の姿が必ずある。

「ヤスさん(長橋康弘監督)が信頼して使ってくれている以上は、そこに応え続けていかないとスタメンに入ることはできないので、そういうパフォーマンスは常に意識していますし、自分の役割としてはハードワークが必ず求められると思うので、そこはきっちりこなすようにしています」。

 ここ2シーズンのプレミアリーグでは全試合にスタメン起用されている、川崎フロンターレU-18(神奈川)の鉄人右サイドバック。DF江原叡志(3年=川崎フロンターレU-15出身)の圧倒的な効きっぷり、比類がない。

 右サイドでバランス維持に腐心していた。FC東京U-18と対峙したホームゲーム。前節は終盤に追い付かれ、悔しいドローゲームとなった川崎F U-18は、U17アジアカップから帰国したばかりのU-17日本代表DF柴田翔太郎(2年)を左サイドバックのスタメンに指名。より攻撃的な姿勢をメンバー構成に滲ませる。

「個人の特徴を考えた時に、今日は左サイドバックが柴田だったので、いつも右肩上がりで自分が上がっているんですけど、今日は左肩上がりで柴田を上がらせながら、バランスを見ながらやっていました」という江原は、少し攻撃を自重しながら、DF山中大輝(2年)にDF林駿佑(1年)と下級生で組んだセンターバックコンビとともに、まずは守備の安定に着手する。

 スコアは0-0で推移する中、終盤の失点で勝ち点3が1に変わってしまった試合をリーグ戦のピッチで経験してきた江原は、「後半足が止まって、集中力が切れるというところで失点が多かったので、そこはみんなで声を常に出し続けました」ときっぱり。相手の攻撃の芽を未然に摘み取り、危険なシーン自体を作らせない。

 ようやく歓喜の瞬間を迎えたのは後半45+4分。柴田のCKが相手のオウンゴールを誘発し、先制点を挙げると、残り時間も潰し切って、川崎F U-18が劇的な勝利を奪い取る。「メッチャ嬉しかったですね。苦しい試合だったので、喜びが爆発しました。クラブユース前の最後の試合でしたし、ここで勝って勢いに乗っていきたいと思っていたので、この勝ち点3は大きいと思います」と語った江原の顔にも、試合後には大きな笑顔が広がった。



 昨シーズンは昇格初年度でプレミアリーグEASTを制した川崎F U-18だが、リーグ戦にファイナルを含めれば“プレミア”の公式戦として戦ったのは全部で23試合。さらに、今シーズンのリーグ戦はここまで11試合を消化している中で、実は江原はこの34試合すべてでスタメン起用されているのだ。

「彼はジュニアユースの頃から知っているんですけど、まず日頃のトレーニングに向かう姿勢が本当に人と違います。本当に一生懸命ですし、何を課題にやっているかということがしっかり整理された中で、着実に力を付けてきています。『やっぱりそういう努力する選手がこうやって試合に出られるんだな』という良い見本を彼は見せてくれていて、去年からレギュラーを張っている選手が頑張っているのに、自分たちが頑張らないわけにはいかないという想いが、当然チームの選手の中にもありますし、本当に目に見えない部分でも、彼のチームに与える影響というのは大きなものがあります」(長橋監督)。江原をスタートからピッチに送り出し続けている指揮官の言葉を聞くだけでも、その存在の大きさは十分に理解できる。

 プレミアリーグでの経験が、自分にもたらしている成長について尋ねられると、返ってきた答えも印象深い。「自分がマッチアップする選手はだいたい左サイドハーフで、相手の10番とか相手のエースが多いんですけど、そういういろいろな個性を持った選手との1対1の対応で、成長できる試合が多いかなと思います。だいたい速い選手ばかりなので、大変ですね(笑)」。繰り返されるハイレベルなマッチアップに、自分の能力が引き出されていることも確実に実感しているようだ。

 右サイドバックとして参考にしているのはマンチェスター・シティのカイル・ウォーカーだと言うが、その理由がなかなか振るっている。

「この間、三笘(薫)選手にみんなで円になって話を聞いた時に『カイル・ウォーカー選手が一番嫌な選手だった』と言っていましたし、自分はどちらかと言うとディフェンスが好きなので、アジリティのところは参考にしているんですけど、カイル・ウォーカーを超えられれば、三笘さんも止められると思うので、そこを目指してやっていきたいと思います」。“カイル・ウォーカー超え”からの、“三笘薫超え”。どうせだったら、目指すステージは大きければ大きいほど良いに決まっている。

 U-18での活動も、残された時間はそう長くない。ここからの半年近い時間では、為すべきことも明確過ぎるほど明確だ。「直近だとクラブユース(選手権)があって、去年はベスト16で悔しい想いをしたので、今年は絶対に優勝したいですし、後期に向けてはもっともっと自分たちのサッカーを突き詰めて、もっと相手を圧倒できるようなチームにしたいなと思います」。

 川崎F U-18が誇る、右サイドバックの逞しき鉄人。たゆまぬ努力で今の立ち位置まで這い上がってきた江原が、このグループにいる価値は、それこそ右肩上がりに高まり続けている。



(取材・文 土屋雅史) 
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