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[MOM4436]FC東京U-18DF岡崎大智(3年)_長期離脱から復帰した主将の意地。魂の決勝点はきっとラッキーや偶然ではない

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劇的な決勝点でチームに勝利をもたらしたFC東京U-18DF岡崎大智(3年=FC東京U-15深川出身)

[高校サッカー・マン・オブ・ザ・マッチ]
[9.24 高円宮杯プレミアリーグEAST第15節 FC東京U-18 2-1 横浜FMユース 東京ガス武蔵野苑多目的グランド]

 コーナーキックを獲得した時に、なんとなく予感はあった。2本続けて自分のところにボールは来ている。時間ももうほとんど残っていない。狙うは3度目の正直。ただ、不思議と心は落ち着いていた。

「1本前のコーナーキックの時に、自分のマークが外れていて、その1本前のコーナーキックも自分のところに来ていたので、『次も来るだろうな』とは思っていて、信じて飛び込んだらボールが来た感じでした。自分はゴールを獲る選手というよりは、クロスでアシストをする方が多いイメージで、点を獲らせたいタイプですけど、ラッキーが来ちゃいましたね(笑)」。

 ケガから帰ってきた主将が、土壇場で奪った魂の決勝ゴール。FC東京U-18(東京)に10試合ぶりの勝利をもたらす一撃を決めたのが、悔しく、もどかしい時間を過ごしてきたDF岡崎大智(3年=FC東京U-15深川出身)だったのは、きっとただのラッキーや偶然ではない。

 FC東京U-18はとにかく苦しんでいた。リーグ戦では9試合勝利がなかった上に、アウェイで戦った前節の昌平高戦は0-6という衝撃的な大敗。これ以上はないぐらいの屈辱を突き付けられる。

「昌平戦はいろいろなところで意見の取り違えもあったので、みんなで話し合おうと。誰かが言ったことに対して、答えをみんなで返すということをやってきた1週間でした。劇的な変化は全然ないと思うんですけど、ポジティブな会話が増えた印象はあります」と話す岡崎は、自身にもしっかりとベクトルを向けていた。「自分はまず試合勘が戻ってきていないのが一番の課題なので、とりあえず体力面も技術面もイチから見直しました」。

 本人も“試合勘”に触れたとおり、今シーズンの岡崎は思い切りボールを蹴ることも叶わない時間を過ごしてきた。1月にヒザの半月板を傷め、手術を行ったことで、シーズンが開幕しても続くのはリハビリの日々。ずっと目標に掲げていたトップチーム昇格を考えても、アピールすらできない状況に、メンタルをコントロールし切れない時期もあった。だが、そんな“弟”は“兄“から掛けられた言葉に救われたという。

「自分は『高校でプロになれなかったら、サッカーをやめようかな』ぐらいのイメージでやっていたので、ケガをしていた時期は結構厳しかったです。でも、今はプロでやっている兄が、『大学という道もあるし、そこで4年間頑張ればプロだってなれないわけじゃないから』と言ってくれたので、何とか心を保ってきた感じでした」。

 FC東京U-18からトップチームへと昇格を果たし、今季からロアッソ熊本に完全移籍した兄の岡崎慎からもらったメッセージを胸に、戦線復帰する日を見据えて、自分にできることを積み重ねていく。その間もなかなか結果に恵まれない仲間たちを励ましながら、「チーム状況は厳しかったですけど、その中でも光る個があったので、まとまれば強くなるとは思っていました」という“一筋の光”は見出していた。

 ようやく後半戦に入って戦線復帰した岡崎だったが、自身がスタメンに指名された2試合も勝利は得られず、前節は信じられない完敗をピッチで味わう。「昌平戦も良くなかったので、自分もメンバーを外れたんだと思います」。この日の横浜FMユース戦では、ベンチから出番を窺うことになる。

 前半はほとんどの時間帯で攻め込まれながら先制を許し、後半も多少の改善は見られたものの、依然として苦しい展開を強いられる中、奥原崇監督は11分に決断する。「監督からは『自分が声を出すだけではなくて、全体の声を双方向にさせるように』という指示をもらって、自分としては『絶対に勝ってやろう』と思ってピッチに入りました」。13番を背負った岡崎がピッチへ駆け出していく。



 それは27分だった。岡崎が右から中に入れたパスを起点に、FW山口太陽(2年)が泥臭く押し込んで、スコアは振り出しに。意気上がる青赤。ピッチの選手たちも、ベンチメンバーやスタッフも、スタンドで見守るサポーターや保護者の方々も、次の1点を目指してボルテージを高めていく。

 左サイドでFC東京U-18がCKを奪う。時計の針が指していたのは44分。もう時間はほとんど残っていない。途中出場のDF平澤大河(3年)が丁寧に左足で蹴り込んだボールの軌道を、飛び込んできた13番の頭が捻じ曲げる。

「『ニアが潰れた後ろにこぼれればいいかな。ファーに行ったらその時はその時だな』ぐらいの感じで入っていって、相手のストーンの選手の後ろで逸らした感じです。ちょっと軌道は見えましたけど、『ああ、ラッキー!』って感じでした(笑)」。

 ベンチから、アップエリアから、ピッチの周りから、青赤の選手たちが全速力で飛び出してくる。「ここまで長かったですね……。『自分もそろそろ活躍しないとな』というタイミングで勝てたので、もちろん自分のゴールも嬉しいですけど、ずっと勝てていない中で、勝ち点3を絶対に獲ろうという試合で、全員で勝てたことが一番嬉しかったです」。これぞ主将の仕事。久々の白星は岡崎のヘディングによってもたらされた。

 試合後。岡崎はサポーターに促され、“シャー”で勝利の喜びを分かち合う。「アレも中2以来ぐらいですね。そもそも高1と高2の頃は観客の方もほとんどいなかったですし、公式戦のゴールも高1以来だと思うので」。ようやく選手たちとサポーターに大きな笑顔が広がった。

 奥原監督は、岡崎についてこう言及している。「彼が出ればチームの質が上がることは間違いないんですけど、僕もジュニアユースから見ていて、彼がこういう点を獲ったのは初めてですね(笑)。でも、チームの立ち上げの時に主将という立場を引き受けた中で、どこかで主将を示すような機会を掴もうとは本人が一番思っていたはずですし、ケガもあって歯がゆかったり、苦しかったと思うので、たぶんこれはチームとしても、残りの後期すべてに影響を及ぼしてくれる点だったかなと思います」。

 岡崎に「今日は主役ってことでいいかな?」と水を向けると、笑顔でこういう言葉が返ってきた。「そんな気持ちはないです(笑)。本当にラッキーが重なっただけです。コーナーキックも普段は中に入るようなタイプではないですし、たまたま人数の関係で自分に強いマークが当たらなかったことも、ボールが良かったことも含めて、本当にラッキーが重なっただけです。いやあ、ラッキー・マン・オブ・ザ・マッチですよ(笑)」。

 その明るさが心地良い。誰もが認めるこの日の“主役”が、しきりに口にしていた『ラッキー』というフレーズ。確かにそれはラッキーや偶然だったのかもしれない。それでも、苦しみ抜いてきたチームの4か月ぶりの勝利を、あの時間の決勝点で手繰り寄せたのが岡崎のゴールだったという事実には、やっぱりきっとただの“ラッキー・マン・オブ・ザ・マッチ”では片付けられない、サッカーと真摯に向き合ってきた者だけが引き寄せられる、不思議な力が働いていたのではないだろうか。



(取材・文 土屋雅史) 
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土屋雅史
Text by 土屋雅史

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