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天皇杯の『東京ダービー』で奪った得点も大きな自信に。東京VユースFW白井亮丞は自らのゴールで見る者を魅了し続ける

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この日も貴重なゴールを沈めた東京ヴェルディユースFW白井亮丞(3年=東京ヴェルディジュニアユース出身)

[10.1 高円宮杯プリンスリーグ関東1部第14節 健大高崎高 1-2 東京Vユース 高崎健康福祉大学高崎高校サッカー場]

 ゴールを奪う才能があることは、そのプレーを見れば十分にわかる。あとはその才能をいつ発揮するか。こればかりは運に拠るところも少なくないかもしれないが、その可能性を少しでも上げるため、どれだけ日常を磨けるかというフェーズに、もうこの9番は入っているのかもしれない。

「今はヴェルディユースに貢献したいところが一番強いです。今年は何が何でもプレミアに上げたいですし、個人的にも今は得点王争いがあるので、そこは絶対に勝ちたいなと思っています」。

 すでにトップチームの公式戦でも得点を挙げている期待のストライカー。東京ヴェルディユース(東京)を最前線で牽引するナンバー9。FW白井亮丞(3年=東京ヴェルディジュニアユース出身)はチームのために、そして未来の自分のために、これからも自らのゴールで見る者を魅了し続ける。

「完全に相手の土俵に乗っちゃいましたね」と薮田光教監督も話したように、チームは苦しい展開を強いられていた。アウェイで健大高崎高(群馬)と対峙したプリンスリーグ関東1部第14節。相手の前への勢いに圧され、東京Vユースはなかなか攻撃の時間を作れず、GK佐藤翼(2年)が連続で繰り出した驚異的なセーブに救われる時間が続く。

 42分。千載一遇のチャンスが訪れる。後方からのフィードに抜け出した白井は、GKと1対1に。だが、瞬時に選択したループシュートは枠の右へ外れていく。「今日はあまり判断が良くなくて、ボールロストも多かったですし、真ん中でどっしり構えたかったんですけど、それもあまりできなかったです」。チーム同様に、自身のパフォーマンスも上がってこない。

 それでも、後半11分には再び好機がやってくる。前半と同じような形でラインの裏へ飛び出すと、白井はここもループシュートを狙いに行く。「背後にボールが来るイメージはしていましたし、キーパーも出ているのはわかっていたので、上にチョンと浮かそうかなと。同じような形だったので、2回は同じミスはできないですから」。

 飛び出したGKの鼻先で浮かせたボールは、ゆっくりとゴールネットへ弾み込む。「あそこでアレ以外の選択肢はなかったですけど、形としては最高のゴールでしたね」。一度は失敗したループシュートを再び決断するあたりに、ストライカーの意地も滲む。難しい流れの中で奪った先制弾。その後はいったん追い付かれたものの、MF川村楽人(2年)のPKで突き放して、結果的には2-1で勝利。自らの一撃は決勝点にこそならなかったものの、厳しい状況での1点がチームに与えた影響を考えても、白井は一定の仕事を果たしたと言っていいだろう。

 7月には自信を深める“1試合”があった。天皇杯3回戦はFC東京と激突する“東京ダービー”。トップチームデビューを飾った2回戦のザスパクサツ群馬戦に続いて、白井はこの試合もベンチメンバーに指名されると、1点のビハインドを負った後半23分にピッチへ解き放たれる。

「練習にも行っていましたし、雰囲気的にベンチには入れると思っていたんですけど、後半の早い時間帯からの出場だったので、『おお、このタイミングか』とは思いました」。登場から2分後。北島祐二が右から蹴ったCKの軌道が白井に届くと、ヘディングで合わせたボールはゴールネットへ滑り込む。

 2種登録の高校3年生がダービーで叩き出した、衝撃のトップチーム初ゴール。ただ、本人はこの一連に少しだけ後悔が残っているという。「ちょっとダサいゴールパフォーマンスをしてしまったんですよね。もっと来てくれるのかなと思ったら、結構皆さんが自陣に帰り出しちゃって、思ったより人が来なくて、『あ、人が来ない。ヤバい、どうしよう……』と思って、近くにいた人に抱き付きに行きました(笑)」。

 試合はPK戦の末に敗れたものの、8人目のキッカーとしてPKも成功させた白井は、この日を境に意識も大きく変わったという。「あの試合は本当に自信が付きました。相手も有名な選手ばかりで、その中で自分で点を獲れたというのは、本当に大きな経験になりましたし、そこからは自信を持っていろいろなことに挑戦してみようと思えているんです。1試合に1点は獲るという目標も、最初は全然できていなかったんですけど、だんだんできるようになってきて、自分自身が良くなってきていると思います」。

 薮田監督は“白井のダービー弾”がアカデミーに与える影響についても、こう言及している。「あの試合はジュニアもジュニアユースも、ユースもアカデミー全員で応援しに行ったので、アレを目の前で見たことでユースの選手にも凄く良い刺激になりましたね。『アイツもトップでやれるんだ』と思ったことで、プロになりたいと考えている3年生には響いたと思います」。ジュニアやジュニアユースの選手には憧れの対象に、ユースの選手には刺激の対象になっているという意味でも、あのゴールは白井にとっても、クラブにとっても、非常に意義のある1点だったということだろう。

 プリンスリーグ関東1部でも、ここまで白井は14試合で13得点とハイペースでゴールを重ね、得点ランキングは現在2位。さらにチームもプレミアリーグプレーオフ出場圏内の2位に浮上しており、ここからは嫌でも数字や結果を意識せざるを得ない戦いが続いていくが、本人は自分の足元をしっかりと見つめている。

「今日はサッカーの内容は気にせず、何が何でも勝ち点は獲ろうというこだわりはあったので、チームとしてのそういう意志で勝てたのかなと思います。個人としてはそんな先のことは考えていないですね。いま見える範囲のことをしっかりやろうと思っていますし、自分と向き合ってやっていこうと考えています」

 昨シーズンから若き緑の9番を背負ってきた、頼れるストライカー。ここから迎える2か月余りの終盤戦を勝ち抜き、東京Vユースがいるべき場所へと帰還するためには、今まで以上に白井の魅せるゴールが、絶対に欠かせない。



(取材・文 土屋雅史)
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土屋雅史
Text by 土屋雅史

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