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「無冠の世代」が示し続けてきた圧倒的な成長の最終章。岡山U-18は札幌U-18を撃破して初のプレミア昇格に王手!

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ファジアーノ岡山U-18は初のプレミア昇格に王手!

[12.8 高円宮杯プレミアリーグプレーオフ1回戦 岡山U-18 3-1 札幌U-18 広島広域公園第一球技場]

 地道に、丁寧に、誠実に育んできた“未来の芽”が、花開く目前のところまでは漕ぎつけた。それでも、やるべきことは何も変わらない。自分たちらしく、アグレッシブに、最後までゴールを目指し続ける姿勢を貫いて、必ず新たなステージへと繋がる扉をこじ開けてみせる。

「いろいろな習慣が伝統になって、それがDNAになっていくと思いますし、U-18にもいろいろな人が関わってきて、これからも関わり続けるわけで、そういう意味ではこの大会を勝ち切ることがすべての人のためになると思うので、結果はどうなるかわからないですけど、勝つための準備をしたいと思います」(ファジアーノ岡山U-18・梁圭史監督)。

 鮮やかな逆転勝利で、初のプレミア昇格に王手。高円宮杯 JFA U-18サッカープレミアリーグ 2024参入を懸けたプレーオフが8日に開幕し、1回戦が行われた。Aブロックのファジアーノ岡山U-18(中国1、岡山)と北海道コンサドーレ札幌U-18(北海道2)が激突した一戦は、札幌U-18が先制したものの、3点を奪って逆転した岡山U-18が勝利を収め、京都サンガF.C.U-18(関西1、京都)との2回戦(10日)へと駒を進めている。


「相手がどうやって来るのかもわからない中なので、相手の出方や自分たちの強みを探りながら、という部分はあったと思います」という岡山U-18を率いる梁圭史監督の言葉は、おそらく双方の共通認識。お互いにフィニッシュへの道筋を探しつつ、やや静かな展開の中でゲームは立ち上がる。

 試合が動いたのは前半18分。札幌U-18はCKの流れから、こぼれを拾ったMF川崎幹大(1年)が右へ振り分け、キャプテンのFW瀧澤天(3年)はダイレクトでクロス。DF冨谷央雅(2年)がヘディングで前へ送ると、ルーズボールに反応したFW出間思努(3年)の右足ボレーがゴールへ突き刺さる。来季からのトップ昇格が内定しているエースの貴重な先制弾。札幌U-18がリードを奪う。



 ビハインドを負った岡山U-18にも、すぐさま決定機が訪れる。19分。MF清水陽介(3年)のスルーパスに、MF楢崎光成(3年)がフリーで抜け出すも、1対1から放ったシュートは札幌U-18GKシューマッカー・マシュー(3年)がビッグセーブ。北の守護神が同点弾を許さない。

 ただ、「自分たちはリーグ戦の経験から『毎試合1点は獲れる』という自信はあったので、そんなに焦りはなかったです」とキャプテンのDF勝部陽太(3年)も話したように、岡山U-18はDF川上航生(2年)とDF服部航大(3年)のセンターバックコンビに、中盤アンカーのMF藤田成充(2年)の3人を中心に、ビルドアップからの攻撃を徹底。焦れずに、丁寧に、自分たちの戦い方を徹底し続ける。

 37分。岡山U-18はCKの流れから、左サイドに開いた服部がクロス。ファーで待っていた勝部は「『あのへんに蹴っておけば、誰か詰めてくれる』という感覚もあって打った」というシュート気味のクロスを中へ。これをMF南稜大(2年)がプッシュしたボールはゴールネットを揺らす。「先制されても絶対返せるだろうなとは感じていた」という2年生アタッカーが一仕事。前半は1-1で45分間が終了した。

 ハーフタイムが明けると、ゲームリズムは完全に岡山U-18。「自分たちはボールを大切にしながら、相手を見ながらプレーすることが得意なので、無闇に蹴っても逆に自分たちの良さが出ないんです」(勝部)。みんなでボールを動かしながら、右のDF千田遼(1年)とMFミキ・ヴィトル、左の勝部に清水とサイドからの仕掛けも交えて、ジワジワと相手を自陣に押し込んでいく。

 札幌U-18は冨谷、DF窪田圭吾(1年)、DF手塚渓心(1年)が並んだ若い最終ラインが奮闘しつつ、右で幅を取る瀧澤と左に張り出したDF鈴木琉世(3年)を基点に、時折アタックの芽までは作り出すものの、フィニッシュまではなかなか取り切れない。

 すると、後半20分の主役はまたしてもこの男。ここもセットプレーの流れから、右サイドに流れたFW村木輝(3年)がシュート気味のクロスを打ち込むと、「今日はああいうところがチャンスになるかなと思っていた」という南が、再びボールをゴールへ流し込む。持っている15番のドッピエッタで、とうとう岡山U-18が逆転に成功した。

 追い込まれた札幌U-18も踏み込むアクセル。28分には途中出場のFW庄内航汰(2年)が、34分にはMF菅谷脩人(1年)がわずかに枠を外れるミドルを放つと、36分にはビッグチャンス。右から川崎が蹴ったCKに、出間が競り勝ったヘディングは枠を捉えるも、ここは岡山U-18のFW石井秀幸(2年)がライン上でスーパークリアを披露。どうしても1点が遠い。

 試合を決めたのは、守備でもチームを救った29番。45+3分。岡山U-18はカウンターからMF礒本蒼羽(2年)が縦に運び、村木が完璧なラストパスを送ると、最後は石井が冷静なシュートをゴールへ流し込む。スーパークリアと合わせて「2点分の仕事をしてくれた」(勝部)2年生ストライカーのダメ押し弾で勝負あり。「『自分たちらしく戦う』ということはいつも言っているので、90分通してそういうゲームを最後までやってくれたのかなと思っています」と梁監督も口にした岡山U-18が粘る札幌U-18を振り切って、運命の2回戦へと勝ち進む結果となった。



 それは3月のこと。東京で開催された春のフェスティバル『イギョラ杯』で優勝した試合後に、キャプテンの勝部が話していた言葉が印象深い。「僕たちの世代は本当にタイトルとか全然獲れていなくて、『弱い弱い』と言われてきていたので、逆に反骨心もあって、見返したいという想いもみんなありましたし、一体感もメチャクチャあると思います」。

 その反骨心と一体感は、チームにポジティブなエネルギーを生み出し続ける。夏のクラブユース選手権で初の全国4強まで駆け上がれば、シーズンを通じて好調をキープしたプリンスリーグ中国も堂々の初制覇。「絶対に勝ち切るとか、勝負を捨てないとか、諦めないとか、『負けない』というよりは『勝ちたい』というマインドの方が凄く大きくて、それが結果に繋がっている一番の要因かなと思っています」と今季のチームを評する梁監督も胸を張る。

 興味深いのは9か月を経て、再び耳にした“あるフレーズ”だ。3月の時点で「選手にもよく言うのは、『トレーニングでやったことしか出ない』と。だから、トレーニングでは常にいろいろなことができるようにはしています」と話していた梁監督は、この日の試合後もこういう話を残している。

「ウチにはジュニアからいる選手も、ジュニアユースから、ユースから入ってきた選手もいるんですけど、良い部分があるからこそユースまで上がってきているので、絶対にここは良いというプレーは良いんです。そこを個人としても、チームとしても磨くために1年間を掛けてやり続けていくのが当たり前だと思うんですけど、選手自身もいつも言っていますし、僕も選手に伝えているのは、『トレーニングでやっていることしか出ない』と。その日頃のトレーニングを誰も水を漏らすことなくやっているところが、それを1日にも欠かすことなくやれているというところが、そういうマインドになれた要因なのかなと思います」。

 貫いてきたのは『トレーニングでやっていることしか出ない』という確固たる信念。1年間を掛けて日常から積み上げてきたものに対する自信は、この日のように臨む舞台が大きなものの懸かった重要な試合であっても、そう簡単に揺らぐはずもない。

 次の試合はアカデミーの、そしてクラブの新たな歴史を切り拓くための、さらに大事な一戦。「来年自分たちが少しでも上で戦うためにも絶対に勝ちたいですし、3年生にとっても最後の試合なので、そういう意味でも勝ちたいです」と南が話せば、石井も「3年生にとって最後の試合になることはもう決まっていますし、来年の自分たちのより成長できるステージを掴むのは結局自分たちだと思うので、良い準備をしていきたいと思います」と決意を語る。

 勝部が言葉に力を籠める。「やっぱり3年生としては最後の試合ですし、1年生と2年生にとっては来年の自分たちがプレーする場所を決める試合なので、本当にみんなモチベーション高くやってくれていますね。僕個人としても最後に後輩に残せるものがこのプレミア昇格だと信じてやってきたので、しっかりここでプレミアに行って、後輩たちに置き土産ができたらなと思います」。

 無冠の世代が、後輩たちに示し続けてきた圧倒的な成長の最終章。その最後のページは、岡山U-18がプレミアリーグでの歴史を記し始める、最新章の最初のページにそのまま繋がっていく。



(取材・文 土屋雅史)

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土屋雅史
Text by 土屋雅史

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