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スーパークリアにダメ押しゴールで「2点分の働き」!ジョーカー起用に応えた岡山U-18FW石井秀幸はいつでも“準備”ができている

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ファジアーノ岡山U-18FW石井秀幸(2年=ファジアーノ岡山U-15出身)はジョーカー起用でダメ押し弾!

[12.8 高円宮杯プレミアリーグプレーオフ1回戦 岡山U-18 3-1 札幌U-18 広島広域公園第一球技場]

 『準備のできている男』は、この大一番に途中から起用されることの意味も、十分過ぎるほどにわかっている。もちろん狙うのは次のゴール。ただ、何が起こるかわからない一発勝負だからこそ、常にその時にできる最適なプレーを選択し続けるための準備は、日常から重ねてきた。

 「1点リードの中で入って、監督とコーチからは『もう1点決めてこい』という指示があって、そこにフォーカスすることと、守備のところで貢献するというのも自分の中で課題を持って入ったので、そこで貢献できたことは良かったかなと思います」。

 プリンスリーグ中国王者として悲願達成に突き進む、ファジアーノ岡山U-18(中国1/岡山)のスペシャルなジョーカー。クラブ在籍11年目のFW石井秀幸(2年=ファジアーノ岡山U-15出身)が攻守に渡る活躍で、チームを鮮やかに救ってみせた。

 北海道コンサドーレ札幌U-18(北海道2)と勝利のみを目指してぶつかり合った、プレミアリーグプレーオフ1回戦。ベンチメンバーに入った石井は、ピッチに立ったチームメイトたちのプレーを見つめつつ、自分が投入された時のイメージを膨らませていく。

「もちろん出ている選手が良ければ、出場時間が3分や5分の時もありますけど、そこでチームのために動けるかというマインドセットが一番大事だと思うので、『何で出れないんだ』という気持ちは抑えて、チームのためにやることは意識しています」。リーグ戦でもケガ人が相次いだ前期はスタメン起用も多かったが、後期に入ってからは途中出場が大半。それでも、ゲームに入った時の準備を怠ったことは一度もない。

 1点をリードして迎えた後半27分。アップエリアの石井にベンチから声が掛かる。チームの命運が懸かるビッグマッチだ。もう一度自分のやるべきことを整理して、戦いのグラウンドへと駆け出していく。

 36分。岡山U-18に絶体絶命のピンチが訪れる。追い付きたい札幌U-18のCK。中央に蹴り込まれたボールへ完璧に合わされたヘディングは枠を捉えるも、次の瞬間にゴールカバーに入っていた29番のストライカーが、必死にボールを弾き出す。

「あれはいつもミーティングで言われていること通りで、僕はニアポストだったんですけど、そこでの役割として、やるべきことをしっかりやれて良かったかなと。クリアしたのは、もうライン上でした。あまりよくわからなかったですけど、良いクリアだったんじゃないですかね(笑)」(石井)。

 45+1分。相手の攻撃を凌いだ岡山U-18は、鋭いカウンターを繰り出す。途中出場のMF礒本蒼羽(2年)が左サイドをドリブルで運び、ボールを受けたFW村木輝(3年)は優しくラストパス。走り込んだ29番のストライカーは、ボールを確実にゴールネットへと送り届ける。

「フォワードの村木くんが完璧なクロスを上げてくれたので、あとはもう触るだけでした。この1年間はこのプレーオフのために準備してきたところもあるので、みんな喜んでくれて幸せでしたね。後期からはなかなかスタートから出る機会は多くなかったですけど、その中で『1本シュートを打って、その1本を決める』というトレーニングをコーチとしてきたので、チャンスが来た時に決められたことは良かったですし、コーチにも感謝したいです」(石井)。



 2失点目を防ぎ、3点目を挙げた石井の活躍には、キャプテンを務めるDF勝部陽太(3年)も「あそこで3点目を獲るのと獲らないのでは、次の試合に向けても全然違いますし、もし同点に追い付かれていたら全然わからない展開だったので、もう“2点分の働き”をしてくれたなと思っています」と言及。ストライカーの『2点分の働き』が、チームの勝利の重要なピースを担ったことに疑いの余地はない。

 石井をピッチへ送り出した梁圭史監督は、その寄せている信頼をこう口にする。「このゲームだけに限らず、トレーニングの前も、トレーニング中も、トレーニングが終わった後も、ヒデ(石井)は常に一番良い準備をやっている選手なので、あのクリアはかなりのビッグプレーだったんですけど、守備でもアグレッシブにボールを奪いに行くとか、ゴールを目指すというのはいつもやってくれていることなので、そこはもう期待して、信頼して見ていました」。やはり指揮官が最も評価しているのは、“準備”の部分だということも窺える。

 ただ、自身では特別なことをしているつもりはまったくないという。なぜならそれはこのクラブで育ってきた中で、最も重要なこととして赤いDNAに刷り込まれているからだ。「僕は小学生の頃からファジアーノにいて、自分の置かれた状況で、置かれた立場で最善を尽くすというのはファジアーノのDNAだと思うので、それを出しているだけです」。

 泣いても、笑っても、2023年の岡山U-18に残されたのは1試合のみ。言うまでもなく、どんな状況でも石井が携えてきた信念にはいささかのブレもない。「3年生にとって最後の試合になることはもう決まっていますし、来年の自分たちのより成長できるステージを掴むのは結局自分たちだと思うので、もうあとは思い切り楽しんでやれたら、結果は付いてくるのかなと。次の試合も良い準備をしていきたいと思います」。

 平静ではいられないような大事な局面で、ものを言うのは間違いなく入念な準備。地道に、丁寧に、誠実に力を付けてきた岡山U-18が誇る『準備できている男』。攻撃でも、守備でも、目の前のやるべきことを120パーセントでやり切れる石井が、みんなで掲げたプレミアリーグ昇格の主役にならないとは、誰にも言い切れない。



(取材・文 土屋雅史)

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土屋雅史
Text by 土屋雅史

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