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悔しい善戦はもう必要ない。北海はプレーオフの惜敗を糧に選手権で「全国での勝利」に再チャレンジ

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プレーオフで悔しさを突き付けられた北海高は選手権で全国勝利に再チャレンジ!

[12.8 高円宮杯プレミアリーグプレーオフ1回戦 北海高 1-2(延長)近江高 広島広域公園 第一球技場]

 試合が終わった直後のことだ。延長までもつれ込む激闘の末に散った敗者のロッカールームに、指揮官の激しい言葉が響き渡る。

「北海道のチームは全国に出るとなかなか勝てなくて、やっぱり“島国”ということで、全国の基準をなかなか知ることなく、ぬくぬくと育ってきているところがあるので、そこを何とか打破したいんですよね。どんな形であっても勝たないと意味がないので、それは口酸っぱく子供たちに言ってきました」(北海高・島谷制勝監督)。

 真剣に勝ちに来たからこそ、悔しい。真剣に勝てると思ってきたからこそ、とにかく悔しい。プリンスリーグ北海道を逞しく制し、初めてのプレミアリーグプレーオフに臨んだ北海高(北海道1)は、この悔し過ぎる惜敗を糧に、ここから改めて全国での勝利へと向かう決意を定めていくはずだ。

 幸先は上々だった。近江高(関西2、滋賀)と対峙したプレミアリーグプレーオフ1回戦。「相手の力があるのも、凄く攻撃力があることもわかっていたので、守り倒すしかないなと。だから、『最初の5分で1点獲れ』と話していました」と島谷制勝監督も話した北海は、開始早々にいきなりエースのFW野村光希(3年)がPKを獲得。これを自ら沈め、わずか6分で先制点を奪ってみせる。

 以降は近江にボールを持たれながらも、「狭いところでの対人だったり、体のぶつかり合いというところは自分たちの長所だと思っています」と話したキャプテンのDF川合航世(3年)とDF武笠健次郎(3年)のセンターバックコンビを中心に、守勢に回る時間が長い中でも粘り強く相手の攻撃に対応。とりわけステイせずに相手の懐へ飛び込み、ボールを取り切ろうとするアグレッシブな守備に、近江も最後の局面ではシュートを打ち切れず。前半は1点のリードを保ったままで、45分間を経過させる。

 ただ、後半に入ると「いかんせんちょっと繋げばいいところを蹴ってしまうような時間帯が多すぎて、守備で体力を奪われてしまったので、攻撃のところでなかなかパワーが出なかったかなと思います」と島谷監督も振り返ったように、前半は前線で基点を作り、推進力を生み出していた野村とFW田中準人(3年)の2トップにボールが入らず、押し込まれ続ける展開を強いられる。

 後半18分にはとうとう失点を許し、スコアは1-1に。もつれ込んだ延長では前半8分に田中のパスから武笠がビッグチャンスを掴むも、シュートは相手GKの好守に阻まれると、逆に終了間際の延長後半9分に決勝点を献上。耐えに耐えた北海の勝利は、するりとその手からこぼれていった。

「相手が強いので、『勝てるゲームだった』なんてことを言うつもりはないですけど、やっぱり勝負強さというか、そういうところで最後はPK戦に持ち込んででも勝ちを拾っていくというか、こういうところで勝ってこそ、北海道のチームや北海高校がキャリアを積んでいけると思うんですよ。『やっぱり北海道のチームは結局負けるよね』ということでは、北海道のレベルは上がらないでしょうし、そういうところは子供たちに伝えていたんですけどね」。島谷監督が悔しげに言葉を紡ぐ。

「北海高校としてプレミアリーグのプレーオフに初めて参加できるということで、ここで駆け上がっていかないと、この後の全国大会も同じような結果になってしまうと、自分たちで自分たちにプレッシャーを掛けてきましたし、そう思いながらこの試合に臨んだので、こういう結果になって悔しい気持ちでいっぱいです」。キャプテンの川合も言葉の端々に悔しさを滲ませる。

 傍から見れば初めてのプレーオフ進出で、守勢に回る時間が長かったとはいえ、難敵相手に激闘を演じたことはポジティブにも映るが、彼らの中にそんな感情は微塵もない。なぜなら、北海道を代表してこのステージへ挑んでいるからだ。

「結果的にどんなに悪いゲームでも、勝つことが大事なんです。去年の選手権も国見に良いゲームをしたけれど、PK戦で負けましたし、一昨年の選手権も長崎総附に逆転負けを食らっていますし、北海高校の伝統の中で、全国で結果を積み上げていかないと、絶対に次のステージには上がっていかないと思うんですよね。だから、『後輩たちのためにも、今後の北海のためにも、勝たないとダメだ』ということは言っていましたし、試合が終わった後で『もうちょっとやれたな』なんてことを言うぐらいだったら、『やっとけよ』ということなんですよ」(島谷監督)。

 善戦はできる。それは今までの結果でも証明されている。勝利することがこのチームをさらに次のステージへと押し上げる唯一の方法だとわかっていたからこそ、土壇場での失点で結局負けてしまったことに、言いようのない悔しさを抱えたのだ。

 この日の110分間で得た手応えを問われ、川合が口にした言葉が印象深い。「自分たちの長所としているセットプレーのチャンスが少なかったですし、守備を中心に今日の試合は流れていったと思うんですけど、攻撃のところでも課題の残る試合だったと思うので、手応えという手応えはない試合だったかなと思います」。負けたら、手応えも何も関係ない。とにかく結果が欲しかったという想いが、キャプテンの表情に色濃く浮かんだ。


 この試合のバックスタンドでは、北海のチームカラーでもある黄色いウェアを纏った大応援団が、ピッチの選手たちへ大声で声援を送り続けていた。彼らは島根県の立正大淞南高の選手たち。その理由を指揮官は次のように明かしてくれた。

バックスタンドに陣取る立正大淞南高の「友情応援団」はピッチの北海高の選手に声援を送り続けた


「立正大淞南の南(健司)先生は大学の時の僕の1個下なんですよ。今年の北海道インターハイにウチは出られなかったんですけど、僕たちもこのような形で彼らの東山との初戦を応援したので、“お返し”ということで、『あれだけ北海道でやってくれたんだから』と、当然のように応援してくれたんです。今回は広島空港まで立正大淞南のバスを持ってきてくれて、そのバスで移動しているので、本当にありがたいですし、彼とはこの30年間を指導者として切磋琢磨しながら、凄く高めてもらった関係でもあるので、本当に力になりましたよね」。

「だから、何よりも立正大淞南の子たちが本当に凄い応援をしてくれたのに、そこに応えられなかったことが情けないですよね。やっぱり期待に応えられる男になっていかないといけないんですよ」。その“意気”に対して結果で返せなかったことも、島谷監督はやはり悔しかったようだ。

 ただ、彼らには『全国での勝利』を掴み取るチャンスがまだ残されている。北海道代表として挑む選手権。同じ轍を2度踏むわけにはいかないことは、彼ら自身が一番よくわかっている。試合後には同校OBであり、会場に駆け付けていた山瀬功治が送る激励のメッセージに、選手たちは真剣な面持ちで聞き入っていた。

「山瀬さんからも話していただいたんですけど、この負けてしまったという事実は変えられないので、プレーオフのこの負けを自分たちで見つめ直して、練習やミーティングでしっかり反省して、選手権の初戦に良い準備をしたいと思います」(川合)「本当に勝たないといかんなと。『選手権は次のステップに行くための戦いなんだ』ということを、もう1回徹底します」(島谷監督)。

 善戦はもう必要ない。応援してくれる多くの人たちの想いに、次こそは必ず結果で応えてみせる。狙うのは19年ぶりとなる晴れ舞台での勝利のみ。北海が再びチャレンジする冬の全国の冒険は、そう簡単に終われない。



(取材・文 土屋雅史)
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土屋雅史
Text by 土屋雅史

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