beacon

キャプテンとして味わった葛藤はすべてが成長への材料。前橋育英GK雨野颯真は大学の4年間でも絶対的守護神への道を突き進む

このエントリーをはてなブックマークに追加

前橋育英高不動のキャプテン、GK雨野颯真(3年=FC杉野ジュニアユース出身)

[1.22 練習試合 日本高校選抜候補 1-3 東京国際大]

 代表の高い基準を知ったからこそ、見えてきたものもある。名門のキャプテンという重責を担ったからこそ、わかったこともある。最高の仲間たちと切磋琢磨しながら、逞しく成長することのできた群馬での3年間は、かけがえのない宝物だ。

「高校ではこの3年生の世代で結果を出せなかったので、『やっぱりあの世代は強かった』と思われるためにも、大学で結果を出して見返したいと思いますし、ここでサッカー人生は終わりじゃないので、プロになるという自分の目標のためにも、大学ではまたイチから頑張っていきたいと思います」。

 勝利を義務付けられた前橋育英高(群馬)が誇る不動のキャプテン。GK雨野颯真(3年=FC杉野ジュニアユース出身)は目指すべき高いステージを見据えて、大学の4年間でさらなる飛躍を期す。


「本当にレベルの高い選手が揃っていて、その中で自分も刺激になるところが多いので、非常に楽しいですね」。昨年のU-17日本高校選抜に続き、2年続けての参加となった今回の日本高校選抜での活動。馴染みの顔も並ぶ中で、雨野のリラックスした表情も印象的だ。

「(鈴木)将永は初めてでしたけど、あとの2人は去年の活動でも一緒だったので、もともと仲が良かったですし、みんなですぐ馴染んでやれているかなと思います」と話したように平塚仁(岡山学芸館高3年)と中浦悠大(京都橘高3年)は1年前の選抜でも一緒に戦った2人。そこに鈴木将永(青森山田高3年)が加わった4人も和気あいあいとした雰囲気でトレーニングをこなしていく。

「自分が一番いろいろな経験をしていると思うので、そこで得たものを高い基準にして練習からやっていければ、キーパー陣のレベルも上がっていくと思います。もともとみんなの基準が高いので、日本一になった将永もいますし、去年日本一になった仁もいるので、自分が高い基準を示すというよりは、みんなで良いものを作り上げているところはありますね」。それでも、やはり重ねてきた経験値は群を抜く。どんな環境に置かれても、高い基準を周囲に還元する自覚も、今まで以上に携えている。

 2日目以降に組まれた大学生相手のトレーニングマッチでも、味方のDFラインの顔ぶれが変わっていく中で、的確なコーチングで味方を動かしながら、最後方にそびえ立つ姿には風格のようなものも漂う。それは既にこの先を見据えている意識の高さから来るものかもしれない。

「ここでのスピード感は大学に入ってからも通用する部分があると思うので、このスピード感をイメージしたまま、高いレベルでのプレーをスタンダードにして、大学に行った時も最初から普通にやれるようにということは、この活動を通して意識していきたいかなと思います」。


 2023年はさまざまな葛藤を味わった1年だった。名門・前橋育英のキャプテンに指名されたものの、前年度のインターハイ日本一を経験した選手は雨野1人。なかなかチームとして結果が付いてこない日々が続き、周囲から厳しい視線を送られていることも痛感していた。

 春先に話していた言葉も印象深い。「去年のようにうまくはいかないですけど、逆に弱いところが自分たちの良いところかなと。そこが伸びしろに繋がると思っています」。現状を受け入れながら、ポジティブに前を向くキャプテンの姿勢が、チームへ好影響を与えていたことは言うまでもない。

 個人としては3月にU-17日本代表の海外遠征に参加し、大きな刺激を受けた。とりわけ攻撃へと積極的に加わる意識の向上を指摘されてからは、キックの精度や飛距離にもこだわるトレーニングを重ね、ゴールキーパーとしての総合力も着実に伸ばしていく。

 プレミアリーグでの実戦を経て、チームも少しずつ全国レベルの強敵とも渡り合えるだけの力を付けていく。「去年は先輩に頼っていた部分もあったんですけど、自分たちの代だと『自分たちの力で勝った』と思えるので、そういう意味では今年の代の勝利の方が嬉しいですね」。だからこそ、最後の選手権では1年前のチームが敗退を強いられたベスト8を超えて、日本一を獲ることだけを目標に掲げていた。

 “自分たちの代”のラストゲームは大晦日の一戦だった。高校選手権2回戦。神戸弘陵高とのゲームは0-2。スコア以上の完敗を突き付けられる。「みんなにとって選手権は初めての舞台で、自分は去年の経験を還元するというところで、もうちょっとゲームを安定させられることができたら良かったですし、まだまだ力不足かなとは思いました」。さばさばとした表情で取材に応えていた雨野も、試合が終わった直後には人知れず涙を流していた。

「悔し涙は流さないと決めていたんですけど、『この仲間たちとサッカーするのはこれで終わってしまうんだな』って思ったら、自然に涙が出てきました」。強くない代だと言われ続けてきた。それでも、絶対に見返してやろうと苦しい練習を重ねてきた。結果が出なかったことも悔しいけれど、それ以上にみんなともう一緒にボールを追い掛けることがなくなるんだという実感が、雨野の涙腺を緩ませたのだ。


 それから3週間が経ち、再び集った高校選抜の仲間たちとの時間を、4月から足を踏み入れていく大学生活のためにも、有意義なものにしようという意欲は、口を衝く言葉からもはっきりと感じ取れる。

「1回1回の活動に必ず選ばれるということはないので、そこは常に競争する意識を持っていますし、この選抜に選ばれたら本当にいろいろな活動があって、海外にも行けるわけで、自分としても成長できる舞台が揃っているので、ここに選ばれたい気持ちは強いですね」。

「大学では1年目からスタメンを獲るというところと、4年間の中でまた日本一になりたいですし、もちろん最終的にはプロになりたいとも考えているので、大学での時間で大きく成長したいと思います」。

 前橋育英での3年間は、それまで決してエリート街道を歩んできたわけではなかった18歳に、一歩ずつ成長することへの喜びと、高い目標へと辿り着くための努力を重ねることの楽しさを教えてくれた。次の4年間でもっと高く羽ばたくために、必要なことはもうわかっている。どのチームでプレーしていても絶対的な守護神を目指す雨野が、ここからの未来で描いていく成長曲線も、間違いなくさらに先へ、先へと伸び続けていく。



(取材・文 土屋雅史)
土屋雅史
Text by 土屋雅史

TOP