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【単独インタビュー】中山雄太が“準備”と“メンタル”にこだわり抜く理由「僕が正しいというわけではなく、僕のやり方が僕に一番合っている」

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 カタールW杯アジア最終予選では第3戦以降の全8試合に出場した日本代表DF中山雄太。途中出場での起用が大部分ではあったが、元来強みとしていた攻撃センスとオランダで身につけた守備の力強さをいかんなく発揮し、ベンチメンバーの中では最もレギュラーに近い存在としてあり続けてきた。

 また日々の代表活動では、その“思考法”でもインパクトを残してきた。コロナ禍によるオンライン取材が続く中、報道陣からはレギュラー奪取にかける思いを問われることが多かった印象だが、そのたびに現在の心理状態を詳細に説明し、「まだまだ僕は理想のサイドバックではない」「起きることは全ていいことも悪いことも繋がっていて意味がある」と力強い言葉を残し続けてきた。

 ゲキサカでは今回、中山の単独インタビューを実施。育成年代からこだわり抜いてきたのであろう、そうした思考法の一端を聞いた。

——まずは日本代表の6月シリーズについて振り返っていただきたいのですが、普段より長い2週間に及んだ活動をどう捉えていましたか。
「僕自身、最終戦(チュニジア戦)は出られなかったですが、それ以外の3試合には出ることができました。それぞれの試合での課題はありましたけど、中でもブラジル戦は大きかったかなと思います」

——まさにブラジル戦について聞きたいです。個人的には対人対応で強みを発揮できているように感じていました。ご自身の捉え方としてはいかがでしょうか。
「やれた部分も少なからずありましたが、もっともっとやれたなという部分がありました。オランダで得られたようなところ、たとえば相手との駆け引きなどはやれた部分はありつつも、その他はもっともっとやれたなというのを感じています。ただ、それを感じられたのはすごく大きかったと捉えていて、あれが間違いなく世界基準だと思うので、僕の中ではそれをスタンダードにしたいですし、今後にしっかりと活かさなければいけないようなものをあの試合では感じました」


——そう感じられていたのは意外でしたが、“やれなかった部分”とはたとえばどのようなところでしょうか。
「まず普通にラフィーニャにブチ抜かれてますからね(笑)。あとは相手がミスをして僕が勝ったというようなシーンがありました。もしW杯本番だったらというところでは、たぶん相手ももっとシリアスになってきますし、そういったミスもたぶんなくなってくると思うので、もっともっとやらなければいけないなというふうには思います。あの試合に向けても先を見据えていたがゆえに、『あのままではダメだな』っていうふうに思えたので、僕自身はすごくもっとやれるところがあると感じていました」

——個人的にはセットプレーの守備の流れで、飛んできたクロスを下がりながらクリアしたシーンが印象的でした。そういったプレーのできるサイドバックがいま求められていると思います。
「そのシーン自体は覚えていないのですが、世界のサイドバックの基準としても間違いなく、守備において求められるものはスタンダードが高くなってきていると思います。守備があってプラス攻撃っていうのがあると思うんです。いまのサッカーは攻撃よりも守備にしっかりと重点が置かれてきているなというふうに思っていて、そういった面でも『もっとやれなければいけないな』と僕自身思っています」

——中山選手は代表期間中の取材対応でいつも印象深い言葉が多いです。個人的には「僕は10個のうち9個が良くても一つのミスを気にするタイプ」「自分たちが良くてもさらにそれを上回ってくることも起きるかもしれないので、いろんな可能性を含めて準備していきたい」という心構えや準備の姿勢に感銘を受けているのですが、そのあたりの事前の“思考量”についてどう捉えていますか。
「たぶん僕は結構、(思考量が)多いタイプだと思うんです。昔はそれで頭がパンクした時もあったんですけど、やっぱり自分の中では試合に向けても、練習もそうですけど、準備が一番大事で、準備が全てだと思っています。そこがうまくいかないか、うまくいっているかで試合が大きく変わってくるなという感覚です。また僕の中で準備の定義で言えば、試合が終わった後に『ここができた、もっとああできた』というのがあると思うんですけど、準備の段階で分かっていたはずの課題が出てくるのは、もう三流がやることだなというふうに思っています。どんな結果であれ、言い訳の材料をしっかりとなくしておくというのが準備だと思うので、準備というものに対しての意識は相当強く持ってきたと思います。だからこそ、準備のためにいろいろ考えなければいけないし、そのぶん思考量も多くなるのかなと思います」

——ゲキサカは育成年代の選手が見てくださっているメディアなのでもう少し具体的に掘り下げたいのですが、試合前の準備におけるルーティーンはあったりしますか。たとえばどういうものを見て、どういうものを整理して、どう考えておくかというような。
「ルーティーンと言うと『決まった時間に……』っていうイメージがあって、もちろん僕にもそういうものもあるんですが、それだけでなく必ずするのはやっぱり相手の分析です。それもただ相手の分析をするのではなく、相手の分析に対して自分を組み込むことです。その時々でやっぱり自分が掲げている課題というものがあるんで、この相手にどう発揮していくか、この相手だったらどうなるのかというのを、自分の成長にもやっぱり繋げたいので。それにプラスして、しっかりと結果が求められる立場でもあるので、その上で相手にも勝たなきゃいけないっていうところまで考えるのが、自分の中でルーティーン化というか習慣化されているかなと思います。自分は相手の分析をするタイプですが、その上で自分の新たな挑戦もその試合でやりたいなと思っているタイプです。それはアジア最終予選でもそうでした。もしかしたらそのあたりが自分の準備の特長なのかなというふうに思います」


——指導者から「あまり考えすぎるとうまくいかないぞ」といったことを言われることもあると思いますし、中山選手自身もかつては頭がパンクするような経験もあったという話でした。しかし、それでも考え続けることによって壁を乗り越えられてきた側面もきっとあると思います。考え続けることを自身に求めてきたきっかけなどはありますか。
「まず根本として、僕自身は別に上手い選手じゃないので。ただ、じゃあそこからどう上手くなるかというところです。やっぱり上手くなりたいし、相手チームに勝ちたいですし、ライバルにも勝ちたい。じゃあそこでどうするかというと、結局『どうするかを考える』しかない。だから考える習慣がたくさんあったのかなと思います。代表に行ってもそうですし、ブラジル戦でもそうでしたけど、自分より上手い相手に出会うことが僕はやっぱり好きなんですよね。その選手にどうやって勝てばいいんだろうと考える状況に必然的になるので。だから最初はもしかしたら『考えざるを得ない』『考えなければいけない』という状況だったかもしれないですけど、いまはもう『考えようとして考えている』感覚になっています。そしてそれがどんどん無意識化されていくというのがあるので、指導者の方々が『考えすぎるな』というのはたぶん最初の段階で、それがだんだん習慣化されれば無意識にできることになっていって、考えることがストレスでなくなってくると思います。いまそう思えるのは、やっぱり僕の中の経験がそうさせているのかなと思います」

——とても参考になる話なので、もう少し踏み込ませてください。たとえば先日のブラジル戦ではラフィーニャと対峙していましたが、その時はどのように事前の準備をしていましたか。自身にとっての新たな挑戦という点についても聞きたいです。
「まずあの試合は左サイドバックでしたが、チームでは3バックの真ん中をやっていたので、サイドバックをやるにあたって『いまの自分が持っている力』のベストをその状況で出すことを考えていました。たとえば相手との距離というポイントがあるんですけど、逃げようと思えばどんどん遠くすることもできるんですが、あの状況で自分が持っている間合いでまず勝負しようと。そのチャレンジをした結果、試合後にはもっともっと間合いを詰めたりしなきゃいけないなっていうところもありました。やられたシーンでもそうですし、やられなくて僕が勝ったように見えているシーンでも相手のミスによるものがありましたし、それはその状況で自分が持っているベストなものを出したがゆえ、『でもこのままじゃいけないな』と次に必要なものを見いだせた。じゃあ次は今日見つかった課題に対して、どう力を得ていくのかというのをまたさらに考えるというのが一連の流れかなと思います」

——ちなみに「自分が勝ったわけじゃないけど相手のミスだった」というのは、やっぱりプレーしていたら結構わかるものですか。
「全然わかりますね。その点で言えば僕が相手のミスを誘ったシーンもあるんですけど、単純に相手がミスをしてくれて、自分が勝ったように見えるシーンもあります。自分がトライをしていたり、自分がアクションしていることに対して起こった現象じゃない場合は、相手がただ単にミスしているシーンなのかなと思いますし、そこはやっている身としてわかる部分なのかなと思います」

——とても面白いです。先日の『JFA TV』でワールドカップについて板倉滉選手との対談がありましたよね。そこで「メンタルが特殊」と言われていましたが、その一端が少し分かってきた気がします。やはりそうやってメンタルをコントロールすることは常に意識していますか。
「サッカーに限らず何事もそうですが、僕の中で何か行動を起こす時って、気持ちへの意識が先行するんですよ。気持ちがしっかり整っていないと何事もうまくいかないし、やったとしてもクオリティーを発揮できないというところがあるので、気持ちの起伏を常にコントロールしています。僕の中でよく言っているのは『感情にコントロールされるんじゃなく、感情をコントロールする』ということ。そういった意識でいつもいるので、そこは僕の中での哲学というほどじゃないですけど、サッカーをしている上でもそうですし、生活していく上でも、重要にしている部分かなと思います」

——対談の中では「代表選手ってみんなそういうタイプかと思っていたら意外と違った」みたいな話もありましたが。
「本当にいろんな選手がいますからね。僕はやっぱり結構考えるほうで、たとえば『怒り』が結構一番わかりやすい例なんですが、怒りにコントロールされる、感情にコントロールされる人って、頭に血がのぼると何もできなくなるじゃないですか。周りが見えなくなったりすることもあるし、逆にそれがいいほうに行くこともあると思います。僕はそうじゃなく、その怒りをコントロールして、むしろそれをパワーに変えるということであったり、その感情をコントロールするというのが僕の中で大事なことです。言ってしまえば『怒ろうと思って怒る』という感じです。こういう話をしていると、代表選手の中では『特殊だね』って言われますし、多分変わっているんだなと思います。僕もそういう話をして人との違いに気づくんで、これが僕のスタイルなんだろうなと」


——他の人とは違うコントロールの仕方を持っているような感じですかね。
「コントロールできないという選手も必ずいて、でもそれが良いか悪いかというと、その人に合っていればいいと思います。僕は僕のやり方を生きてきている上で見つけてきただけなので、僕のやり方が正しいというわけじゃなく、僕のやり方が僕に一番合っているなと思っています」

——そういった部分はまさに今までのサッカー経験が反映されているのだと思います。中山選手は世代別代表でキャプテンを務めていて、一見エリートコースを歩んできたように思われる一方、中体連出身であったり、柏U-18時代はいろんなポジションを任されたりと、難しさや葛藤もあったのではないかと思います。そのあたりの経験は結構大きかったですか。
「まさにそれがこうやっていろいろ考える僕の性格を生んだんじゃないかなと思います。性格的に『ここは自分のポジションじゃない』とか『自分の本来のポジションに戻ったらやれる』というのではなく、『どのポジションを任されても活躍したい』『どのポジションでも結果を出したい』っていう思いがあったので、そこで『じゃあどうする?どうやって結果を出す?』っていうところの思考法につながったんじゃないかなというふうに思います。やっぱり環境が結局人間を作っていくなというのはありますね」

——サッカーに関しては最後の質問です。自分のサッカーキャリアを次につなげていく意味でも、ここからの半年間はとても重要なものになるのかなと思います。来シーズン、そしてワールドカップをいまどう見据えていますか。
「今までやってきたものと変わらない部分としては、ワールドカップまでにどれだけ自分が成長できるのか、それがどれだけチームの成長につながるのかというところを、日々の自チームでの戦いで埋めていきたいです。それがさっき言った、より高い世界基準、世界のスタンダードとの差を埋めていくというところになると思います。あとやっぱり日が近づくにつれて勝手にモチベーションが上がったり、自分がコントロールできないようなものも増えてきたりすると思うので、それによって取り組むこともたぶん多くなってくると思いますし、そういった準備もしっかりしていきたいです。本当に何が大事かというと、ワールドカップでベストのパフォーマンスをして、結果を出すことなので。それに対して日々何をするかをしっかりと考えていきたいなと思います」


——スパイクのことについても聞かせてください。『DS LIGHT X-FLY 4』は中山選手とやりとりしながら、仕様を作り上げてきたスパイクだと聞きました。このスパイクへの愛着はいかがですか。
「やっぱり僕の意見を取り入れてスパイクを作ってくださるというところでは、単純に取り入れてくださったというところで思い入れがすごく強くなりますし、僕の意見を反映してくださっていることでもう本当にノンストレスというか、スパイク自体が僕のパフォーマンスに直結していると思っています。本当に感謝しています。また僕の意見もそうですけど、やっぱり『常にいいものを』という意識をすごく強く持ってスパイクを生んでくださるので、常にいいスパイクしか生まれてこないんですよね。そして新しいスパイクを履くと、旧型のスパイクよりも『やっぱりいいな』というふうにいつも思うので、そこが実感できるようなクオリティーのものを日々生んでくださることが僕の中で大きいです」

——スパイクはサッカー選手として唯一の仕事道具とも言えるくらいに大事なものだと思いますが、どのあたりにこだわりがありますか。
「まずは僕がスパイクを選ぶ時には、本当に“履いたその瞬間”に感じる部分を大事にしています。履いた瞬間って足は動いてないじゃないですか。でも動く前のフィット感だけで、新しいものをもらった時に進化しているのがすごく分かるんですよ。そこがすごいなと思います。また僕もいろいろ意見を出し合って、言わせていただく部分が反映されているのもしっかりと感じていて、今後もそれが間違いなく続いていくと思うので、僕はそれを履いてしっかりとパフォーマンスを出していくのが僕の使命かなと思います」


——履いた瞬間、進化しているという感覚が分かるんですね。
「具体的な例を出すとしたら、足のここが当たるか当たらないかであったり、当たり方の質が変わっていくんですよね。あとそもそもストレスがないというのはベースとしてあるんですけど、じゃあ足に対しての圧力というか、包み込み方が変わってきたのも感覚の部分であります。いつも『ここ変わりました?』って自分から聞くんですが、実際に結構そこが変わっているので、感覚的な部分は履いただけで分かります。だからこそ『まずは履いてみてください』って言いたいです」

——先ほどはワールドカップ仕様のスパイクでの撮影も行われていました。このスパイクを履いて世界に出るにあたって、ある種の使命感もあると思うんですがいかがですか。
「こうしてアシックスさんにサポートしていただいているので、僕が何をして恩返しができるかかというと、やっぱり良いパフォーマンスをしてその意義を出さないといけないなと思っています。あとやっぱり子どもたちって、僕もそうでしたけど、好きな選手であったり、活躍している選手の真似をしたくなるのは間違いないので、そういった選手に僕がなることが、アシックスさんにとっても嬉しいことだと思いますし、サポートし甲斐も生まれてきます。そこは僕にとっての使命というか、そうなったら嬉しいですし、そうならなければいけないと思います。僕に対してこうしてすごく思い入れを持って作ってくださるスパイクがあるからこそ、僕もそうやって強く思うことができているなと思います」


(インタビュー・文 竹内達也)


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