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ゴールかと思いきやPK献上…続発した激レア事例に葛藤も「VARとしては適切な対応だった」とJFA審判委

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抗議する名古屋の選手たち

 今月23日に行われたJ1第9節では、片方のチームがゴールを奪ったかと思いきや、VAR(ビデオ・アシスタント・レフェリー)の介入によって相手チームにPKが与えられるという珍しい事例が2会場で立て続けに発生した。VARを導入した当初から想定されていたケースではあるものの、Jリーグで起きるのはこれが初めて。“ぬか喜び”を強いられる形となったサポーターからは困惑の声が相次いでいた。

 注目の事例が先に起きたのは北海道コンサドーレ札幌アビスパ福岡戦。札幌の2-1リードでの後半8分、札幌のFW浅野雄也が敵陣ハーフライン付近から左足を振り、豪快なロングシュートを決めたが、ここでVARが介入。同じプレー内の約30秒前のシーンで、クロスに対応した札幌MF青木亮太が自陣ペナルティエリア内でハンドの反則を犯していたとされ、木村博之主審がオン・フィールド・レビューを行った結果、福岡にPKが与えられた。

 札幌のハンド→札幌のゴールという前後関係だったため、もちろん札幌のゴールは認められない。もっとも札幌にとっては、ゴールを奪った時点で3-1にリードを広げたかと思いきや、福岡にPKを決められて2-2に追いつかれるという“天国から地獄”的シチュエーション。Jリーグ導入4年目で史上初の珍事に後味の悪さが残った。

 さらにこの日は、1時間遅れでキックオフした名古屋グランパス湘南ベルマーレ戦でも同様の事例が発生した。名古屋の2-1リードで迎えた後半30分、名古屋はカウンター攻撃から左サイドを攻め込み、パスを受けたFWマテウス・カストロがペナルティエリア外から左足を一閃。ミドルシュートは相手DFに当たるも、ふわりと軌道を変えたボールがゴールに吸い込まれた。

 しかし、ここでVARが介入。ゴールの約40秒前、名古屋は自陣ペナルティエリア内に攻め込んできたMF山田直輝にDF中谷進之介が対応すると、中谷の出した足に山田が引っかかって転倒。VARの助言を受けて岡部拓人主審がオン・フィールド・レビューを行った結果、湘南にPKが与えられた。こちらも札幌のケースと同様に名古屋のゴールは認められず、湘南がPKを決めたため、2-2での再開になった。

 日本サッカー協会(JFA)の審判委員会は26日、レフェリーブリーフィングで名古屋の件に言及。現場の審判員が出した判定が正しかったという見解を示した。中谷のファウルは本来、DOGSO(決定的な得点機会の阻止)に相当するようだが、ボールにプレーしようとしたことでの接触だったため、三重罰回避でイエローカードとなったのも適切な判定。また直前に名古屋の選手が主張していた湘南のハンドもVARチェックを経ていたが、反則にはあたらなかったようだ。

 もう一つの争点は、名古屋がゴールを決めるまでにプレーを止めていれば、“ぬか喜び”は防げたのではないかという点だ。これについてJFA審判マネジャーJリーグ担当統括の東城穣氏は「できれば新たな事象に入る前にプレーを止めたいというのはもちろんあるが、もし止めるとしたら(事象が起きてから)10〜15秒くらいしかなかった」と述べ、難しい背景を明かした。

 事象が起きてから10〜15秒間でVARチェックを完了させるのは手続き上難しく、それ以降に名古屋のプレーを止めてしまうと、チャンスを防いでしまうことにつながりかねない。そのため「スピードを重視しながらも正確性を追い求めていかないといけない」という葛藤をのぞかせた東城氏は「レフェリーとして試合を止めにくい事象だった」とし、「VARとしては適切な対応だった」と結論づけた。

 レフェリーブリーフィングでは札幌対福岡の事例は取り扱われなかったが、報道陣の質問に対して東城氏は名古屋対湘南戦と同様の解釈ができるという見解を示した。

(取材・文 竹内達也)

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